ホーム 新マガジン記事 おかっぱ日記: 【おかっぱ日記】長い時間をかけて 移動するという贅沢

カンボジアクロマーマガジンPP20号

 

ローカル列車に乗るのがとても好きだ。国境や県境を電車で超えていくということにも心が躍る。世の中では、鉄道が好きな人たちを“鉄分が多い”と言うらしい。わたしもその類いだ。鉄欠乏性の貧血に悩んではいるが。

さて先日、日本に一時帰国した際、新潟と福島の県境を越える磐越西線というローカル線の列車に乗った。新潟県の馬下(まおろし)駅から、福島県の会津若松駅までのワンマン列車の旅。上下線がすれ違う駅以外は単線が山際ぎりぎりを通っており、まるで森の中を走っているような気分が味わえた。反対の車窓には阿賀野川の雄大な景色がゆっくりと列車を追いかけてくる。8月と9月の土曜日にはSLが走っているという風光明媚な路線だ。ただ、雨に弱い。梅雨が明けない新潟の豪雨の影響で、その日の磐越西線は1時間以上の遅延。駅員がいない無人駅で、何十分も列車を待っていた。馬下駅からの乗客はわたしひとりだった。

この状況をどう見るか。わたしは、この上ない贅沢な時間を過ごしたと感じた。長い時間をかけて移動することに対して。旅にタイムパフォーマンスは不要だと思っている。三川駅近くで、三川中学校の生徒たちが電車に大きく手を振っていた。反射的に振り返した。その光景になぜか涙が出そうになる。

猛スピードで流れていく新幹線では手を振る人の姿は見えない。高速化を発展と呼ぶのかもしれないけれど、カンボジアは新幹線を持たないでほしいなぁ、と誠に勝手ながら思っている。

増子夕夏

おかっぱ書房 Okappa Shobou 

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