カンボジアクロマーマガジン32号
誰にでも、毎日決まって食事をする場所があると思う。そこが家の食卓だという人もいれば、近所の食堂だという人もいるだろう。移動式屋台だという人もいるだろうし、夜のバーだという人もいるかもしれない。
そこにはいつもと変わらぬ笑顔がある。まずはおはようの挨拶から始まり、天気の話、仕事の話、世間のニュース、小さな悩み。どこにでも溢れる、何てことないたわいない会話。そしてテーブルの上には、いつものご飯。もう何年も食べている、いつもの味。食べ終わったら、ご馳走様、いってきます。まるで一つ句読点を打つように、わたしは調子を整えて外の世界へ出て行くのだ。昨日も一昨日もそうしたように。
しかし今、日本では食事がエサ化していっているという。食事中、片手に携帯電話は当たり前。パソコンの中のどこかの誰かの発言を読みながら、今食べている物を見もしないで口の中にかき込む人もいるのかもしれない。食事はジュースで済まし、賞味期限が1年も2年も保つものが好まれる。そして魔法のように3分でできあがる、パックの中のものを口にする。
いつの時代でもどこに暮らしていても、食はわたしたちの原点だ。料理をする人がいて、食べる人がいる。他者の命をいただいて、自分が生かされる。そう、わたしたちがたゆまぬ歩みを続けられるのは、息をするようにいつもそこにいてくれる人と、人の手で作られた普段のご飯があるからなのだ。
わたしの座る、いつもの席。そこから何がみえるだろう。自分を形作っているものに、たまには想いを巡らしてみるのもいいかもしれない。
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