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カンボジアクロマーマガジン37号

山に息づく 少数民族の暮らし カンボジア北東部 高地クメール族

[文] 多賀史文 [取材・写真] 多賀史文/Hou Sokratana [制作] 安原知佳(クロマーマガジン編集部)

折り重なる山々、
どこまでも続く碧い森。
木立には仙人のような猿たちが腰かけ、
空には色鮮やかな熱帯の鳥たちが舞う。

カンボジア北東部の高原地帯は、
まさに武陵桃源の地といえる。

そしてここは遥か昔の時代より、
山の民たちが
自然と共に暮らしてきた場所である。

少数民族概要

 カンボジアの国土の大部分は、カンボジア平原と呼ばれる平野地帯である。そこで治水を行い水田稲作で繁栄した民族が、アンコールワットを始めとするクメール王朝を築いたクメール人だ。彼らは現代においても、国内人口の85%以上を占める多数派民族である。
 一方で、カンボジアには海抜500mを超える高原地帯が2カ所ある。国内最高峰のアオラル山を中心に広がる南部のカルダモン山脈と、ベトナム・ラオスのアンナン山脈へと続くモンドルキリ高原を中心とした北東部高原地帯だ。これらの場所は起伏が激しく治水が容易でないため、水稲を栽培するクメール人たちにとってはあまり住み良い場所ではなかった。しかし、それらの地域が未開の地であったわけではない。そこにはクメール王朝勃興以前より、高地クメール族*と呼ばれる少数民族たちが住んでいたのである。
 カンボジア国内で高地クメール族に分類される民族は20を数えるが、その中でも15民族が北東部高原地帯に集中している。彼らはそれぞれが用いる言葉で分類がされているが、いずれも言語学上ではインドシナ半島に広く分布するモン・クメール語族に属する一派で、どの民族も伝統的に焼畑や狩猟などを生業とし、精霊信仰や食文化、工芸など様々な生活習慣を共有している。
 高地クメール族の人口は約50万人。これはカンボジアの総人口のわずか3%にも満たないが、そこには個性豊かで民族色に富んだ高地クメール族たちの暮らしを見ることができる。
*高地クメール族―カンボジアの高原地帯に住む少数民族の総称として用いる用語。現地では「クメール・ルー」という言葉が用いられている。言語や生活様式の異なる20の少数民族から構成される。

山と暮らす人 プノン族

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プノン族の民族衣装。最近は儀式や観光客が来た時ぐらいしか着なくなったと話す

 モンドルキリとは「山の集まる場所」を意味する州名。その名の通り、州内は密林に包まれた山が幾重にも連なっている。そしてそこに住むプノン族は、紀元前よりこの山岳地帯で焼畑や狩猟を行ってきた民族だ。

主な居住地:センモノロム地区、オーリャン地区(モンドルキリ州)
人口:約43,600人
生業:焼畑(陸稲、キャッサバ、カシュー)、狩猟採集、林業、観光業

プノン族の暮らし

 山を知り尽くした者

プノン族は、その名の通りプノン(クメール語で「山」の意)のエキスパートだ。山のどんな植物が食べられるか、どんな場所に獣が現れるか、山で仲間とはぐれた時に再び会える手段、動物を呼び寄せる歌――。
モンドルキリ州の州都センモノロム近郊、プータン村に住むサラさんは、プノン族の生活を紹介する少数民族ガイド。幼い頃から父に教え込まれたという山で暮らす術を活かし、普段はジャングル内でのトレッキングやキャンプツアーの同行を行っている。また仕事が休みの日も、山へ入って山菜採りや家の補修などに使う材料の収集などを行う。すべてを山から得、山に還す。それがプノン族の伝統的な生活の形であるとサラさんは語った。

プノン族の伝統的な竪穴住居。中央に炉があり、煮炊きや暖を取るのに使う

プノン族の伝統的な竪穴住居。中央に炉があり、煮炊きや暖を取るのに使う

 

草笛で鹿をおびき寄せる歌を吹く

草笛で鹿をおびき寄せる歌を吹くガイドのサラさん

 

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屋根の補修に使う草を刈る

 

手で織り上げる伝統

プータン村に住むレンホーンさんは、プノン族伝統織物の織匠。彼女が用いる「腰織り」という織り方は、高地クメール民族の伝統工芸技術として今日まで伝承されているものだ。横糸一本一本を手で通していくのは気の遠くなる作業だが、こうして作られた布は目も細かく、温もりあるものに仕上がる。織り上がった色鮮やかな布は、プノン族が着用する腰巻や、ふんどしなどの民族衣装に用いられてきた。レンホーンさんも昔は数カ月かけて民族衣装用の大判布を織っていたが、最近は新調する人が減ったため、土産物用のスカーフを織ることが多くなったそうだ。

縦糸を掛けた2本の棒の片方を足や壁にかけ、 もう片方を腰に結び付けて織り機とする

縦糸を掛けた2本の棒の片方を足や壁にかけ、 もう片方を腰に結び付けて織り機とする

 

朝市を行き交う竹籠

朝方センモノロムの中央市場では、竹籠を背負ったプノン族の女性たちが往来している。彼女たちの竹籠の中にはワラビやノビル、たけのこ、ヘチマ、ひょうたんなどの山菜や野菜、釈迦頭やトゲバンレイシなどの果物、それからバナナの幹などが入っている。これら山で採れたものを市場に卸し、その売上で生活用品や薬を買って村に帰るのである。プノン族から商品を買うのは、専らクメール人。「自分たちの畑で採れない物を売っている」「自然の味がして美味しい」など、一定の需要があるようだ。

竹籠は高地クメール民族が共通して用いる道具だが、 各民族によって形や色、編み方などが少しずつ異なる

竹籠は高地クメール民族が共通して用いる道具だが、 各民族によって形や色、編み方などが少しずつ異なる

 

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