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カンボジアクロマーマガジン11号

いつか見た映画のような旅 生命の源・トンレサップ湖、その周辺で育まれた信仰、文化、歴史を訪ねる

[取材/写真/文]:西村 清志郎(クロマーマガジン編集部)

 

 熱心な上座部仏教の国として知られるカンボジア。実に総人口の9割が仏教を信仰している。しかし、少数ではあるがイスラム教、キリスト教など他の宗教も存在し、幾世代にも渡って受け継がれている。今回はとりわけ「少数派」が多く集まるとされる、トンレサップ周辺の都市を巡った。

 カンボジアに生命を与え続けている湖、トンレサップ。その周囲ではクメール人だけでなく、ベトナム人、チャム族、中華、少数民族までが生業をなしている。時代の流れ、周囲の人々に自分達の人生を同調させ、様々な宗教、新しい文化を迎合しながら何世代にもわたって生活を続けてきた彼ら。その培ってきた信仰・文化・歴史を発見する。

1日目 午前 シェムリアップ~シソポン(バンテアイミエンチェイ州)

 国道6号線。朝早くから大勢の外国人を乗せ、タイと国境ポイペトへと向かう長距離バスやタクシーを横目に、乾燥した赤土を掻き分けながら道路整備を行っている大型工事用車両。日差しがきつくない時間にできるだけ作業を進めようと、クロマーで顔を覆った人々が懸命に働いている。
1時間ほど走っただろうか、建造中の橋を迂回し、車一台がやっと通れるほどの凸凹道へと入る。水田と椰子の木に挟まれた農道をしばらく走り、小さな屋台をいくつか通り過ぎた頃、仏教国カンボジアでは珍しい、古ぼけた小さな教会「セントメアリー」へと辿り着いた。すぐ前にトンレサップ湖へと続く川があるからだろう、100年以上前に建てられたこの教会には、当時より多くのベトナム人信徒が集まり、礼拝が行われていたという。近くに住む信徒の老父に促され講堂へ入るとイエスの十字架がポツリと正面壁に吊下げられている。椅子も何もなく、吹き抜けのだだっ広い真っ白な空間。人々が集まってくると茣蓙を敷いて、坐して祈りを捧げているのだろう。丁寧に磨かれた木製の小さなマリア像脇には、クメール語に訳された聖書が開かれている。こんな小さな村でも、内戦時代は戦場と化したのだろうか、教会の壁には無数の弾痕が残っていた。

vol11_sub_01-02           土地神ネアックターとして祀られるクリアンムン将軍像

老父に礼を告げ、再び赤土の舞う道へと戻る。少しだけ大きな町に近づいた頃、赤土の道から舗装された道へと切り替わった。町近くの小山「プレアネットプレア(神の目の意)」に登る。内戦時代はここも戦場だったのだろう、山頂に残されたアンコール時代の寺院には機銃の台座がどっしりと据え置かれている。そこに住む修行僧曰く、戦闘の邪魔になるため破壊されたという。僧の案内のもと、周辺を散策してみると天然岩に彫られた大きな象やワニが残されていた。

1日目 午後 シソポン~ポーサット

 シソポンを経由し国道6号線から、5号線へ流れ込む。この道を南下するとバッタンバン、ポーサット、コンポンチュナンを経由し首都プノンペンまで繋がっている。所々に立てられている地雷注意のペインティングを横目に赤土の舞う田舎道をすすむ。
 格段目立つものもない単調な道路から、少し交通量が多くなったかと思う頃、この国三番目に大きな地方都市バッタンバンへと到着した。ここからパイリン方面へと向かう途中に、次の目的地である洞窟遺跡「ラアンスピアン(註1)」がある。この遺跡はカンボジアの小学校の教科書にも出てくるほど有名な新石器時代の洞窟遺跡であり、内部からは石器や土器が発見されている。アクセスの悪さからか、知名度の割には、その場所を正確に知る者はほとんどいない。限られた資料を手に、人々に訪ねながら少しずつバイクを走らせる。vol11_sub_01-01           1900年初期に建てられたセントメアリー教会周辺にはベトナム人が多く住む

 

もうそろそろだろうか、小さいが活気のある村で訪ねていると、小学生ほどの子供達が道案内を申し出た。子供達は二人乗りのまま慣れた手つきでバイクを走らせる。小さな寺院を抜け、裏山へとつづく小道を駆けると、木々や雑草に守られるように立つ岩場へと到着した。
雑草を掻き分けながら中へと入る。岩の裂け目より暖かな光が入り込んでいるせいだろう、内部は思ったより明るく、広い。当時、どのぐらいの人々が住んでいたのだろうか、足元を見ると小さな土器の破片が転がっていた。
 真っ青だった空が黄色くなり始めた頃、再びバッタンバンの町を通り過ぎた。次の大きな町ポーサットへと到着する頃にはどっぷりと太陽が沈んでいることだろう。

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