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カンボジアクロマーマガジン25号

プノンペン ナイトウォーカー Phnom Penh Night Walker

[文・写真] 多賀 史文  [制作] 安原 知佳 クロマーマガジン編集部

シハヌーク通り

なんてこともない普通の光景、

それこそが彼らの望んでいたものだろう

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モニボン通りからシハヌーク通り、その交差する場所には、巨大な黒い影が聳え立つ。“ゴールドタワー42”。リーマンショック前のカンボジアバブル時代、プノンペン最大の高層ビルを謳って注目を集めたツインタワーであったが、未だ20階余りの骨組み状態で工事は止まっている。ビル内のアパートメントや、テナントの半数は販売済みとなっていたが、建設、投資を行っていた韓国系ディベロッパー会社が受け取ったお金とともに消えてしまったのだ。その後、幾度にも亘り新しいディベロッパーのもと、工事が再開されてもすぐに消えていく、プノンペン版バベルの塔。今後の再開発の予定もないまま、ある種のランドマークとして立ち尽くしている。

 

フランス植民地時代からは独立しても、実際断ち切ることのできないフランスの影響。そして、この街全体の開発計画もフランス式に進められていた。その文化の一つを継承し、車は路上に停めるものとされ、駐車スペースは最初から考慮されていない。片道二車線の路側帯には駐車された車が並び、急激に増えた交通量と狭い道路とのアンバランスが、この道をより圧迫させる。
急に開けた道路には広々とした中央分離帯が広がる。片道三車線とバイクを考慮した幅広の路側帯がある。だんだんと近づく独立記念塔、それは1963年から約1世紀に渡って続いたフランスの植民地統治からの独立、カンボジアの平和の証として建設された。完成当時、その後始まる悪夢の四半世紀には気づかずに歓喜に沸いていたという。

 

川沿いまで続く中央分離帯、それ自体が公園であり、きちんと整備された芝生の広場には多くのカンボジア人たちが夕涼みにやってきている。子供達は甲高い声をあげて走り回り、ベンチに腰掛けの恋人たちは肩を抱きながら色鮮やかな噴水を眺めている。なんてこともない普通の光景であるが、こうして夜に家族や恋人が出歩く事ができていること、それこそが彼らの望んでいたものなのだろう。

 

メコン*5の脇には、近年建造されたばかりの大型遊園地“ドリームランド”がある。園内ではこざっぱりしたファッションに身を包んだ若者や家族連れが、観覧車や大型アトラクションのイルミネーションを浴び、キラキラと輝いている。正面には高級カジノホテル“ナーガ” *6があり、その屋上からは夜空を切り裂くようにサーチライトが回転し、巨大な電光掲示板が明滅している。強力な光に集まってくる虫、それは光源に近づけば自らの体が燃え落ちていくことに気づいてはいない。その光に誘い込まれるようにエントランスには列をなした高級車が停まり、着飾った人々を次々に放出しては立ち去っていく。人々は自ら建物の中へと吸い込まれていく。そのすぐ裏では、光に飛び込めない人々が手を合わせて、物乞いをしている。

 

黄金色に彩られた広いホールを抜け、館内へと足を運ぶ。両脇には熱を帯びた人々がギャンブルに熱中している。スロット、バカラ、ルーレット、様々なテーブル台が整然と並ぶ中、あどけなさの残る女性ディーラーが、澱みない動きでチップを捌いている。目の前には、100ドルチップが重なり、その山は瞬間的に増えては、次の瞬間には消えている。それらは何も不思議なことのない手品のようだ。少し浅黒い顔の男女が鋭い眼光でテーブルを眺めながら、何かにとり憑かれたようにチップの山を重ねては、一喜一憂している。彼らの摩耗した価値観、そしてその背中は、この空間の一部分となり、外界から切り離された特別な空間を形成させている。

 

メコンからバサック河へと繋ぐ河川敷にコピッチ(ダイヤモンド島の意)がある。数年前の水祭りで死者350人を超す将棋倒し事件で一躍有名になった島である。事件発生後、訪れる者が激減したと聞いていたが、島内のプチ遊園地は、多くのカンボジア人で賑わっている。ドリームランドより値段が安い施設には、幼少の頃のデパート屋上で見たような安っぽい乗り物、吊られただけの三輪車が回るメリーゴーランド、不思議な早さで回転する観覧車など、手作り感の漂うアトラクションばかりが揃っている。その近くでは、何かを探す訳でもなく、別段目的もなく、夕涼みを兼ねバイクドライブを楽しむカップルや家族が、先の光の中へと次々と消えていく。

 

*5 メコン-メコン川。アジア7ヵ国に渡り流れる国際河川。
*6 ナーガカジノ-プノンペン唯一の政府公認カジノ。カジノは海外パスポート所持者のみ利用可能。

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素敵なカンボジアに出会う小旅行へ―The trip to encounters unknown cambodia