カンボジアクロマーマガジンPP9号
多くの読者も実感されていることかと思いますが、カンボジアの金融セクターは近年急速に成長しています。その結果、これまで金融サービスにアクセスできなかった多くの人々が、金融機関からの借入や預金口座の開設を行うようになりました。しかし、この成長の一方で、多重債務に陥り、返済が困難になるケースも増えており、最悪の場合、自殺に至る事例も報告されています。この問題は日本でも昨年、日本経済新聞が取り上げるなど、国際的にも注目を集めるようになりました。
JICAはカンボジアの金融分野において、カンボジア中央銀行
(National Bank of Cambodia, NBC)の調査研究能力を強化する目的で、現地通貨の普及や金融包摂の促進のための研究、さらには金融政策立案能力の向上に向けた技術支援や政策提言を行っています。その一環として、多重債務問題に対しても家計の金融リテラシー向上を目指し、様々な金融教育プログラムの効果検証を実施し、NBCや現地の金融機関に対して、政策提言を行っています。
特に、家計簿を活用した金融教育研究プロジェクトでは、カンボジアの家計を対象に1年間にわたり家計簿の記帳方法を指導し、その効果を実証的に分析しています。研究に参加した家計からは、「本研究に参加する前は家計簿をつけたことがなかったので、家族全体の収入や支出を厳密に記録するのは初めての経験となった」、「家族同士で収入や支出を確認し、見直すきっかけになっている」といった回答があり、家計簿をつけ始めたことで行動変容があったことをうかがえる家計が多くありました。さらに興味深い回答として、「収支の記録をつけることは女性の仕事という考えがあったが、考えが変わり、妻に代わって家計簿をつけている」と答えた男性もいました。一方で、「文字の読み書きができないので、子どもに収支の記録をさせている」といった回答もあり、家計簿をつける上で課題を持つ家計も存在することが分かりました。
一連の金融教育研究の成果に関しては、地道ながらも現地機関にフィードバックを行っています。2023年、多重債務問題に対処するため、NBCとカンボジアマイクロファイナンス協会が「Safe Finance in Community Project」を立ち上げ、全国的に金融リテラシーの向上を図る取り組みを始めました。筆者もこのプロジェクトに参画し、教育プログラムの策定や効果検証に協力しており、各家庭に家計簿のつけ方を教えることを提案しています。ちなみに、カンボジアでは家計簿に相当する固有名詞がないそうで、日本語の「Kakeibo」という言葉を使用しています。プロジェクトを通じてカンボジアで各家庭の金融リテラシーが改善され、金融セクター全体の健全性が向上することを、金融分野の専門家として願っています。
金融政策のための経済分析・調査・運営能力強化プロジェクト
相場 大樹 (専門家)
独立行政法人国際協力機構(ジャイカ) カンボジア事務所
ジャイカは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、
開発途上国への国際協力を行っています。
Web: https://www.jica.go.jp/cambodia/index.html
Facebook: JICACambodia
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