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カンボジアクロマーマガジン44号

写すシリーズ
アンコールの貯水池を写す
樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

雨季の東メボン。貯水池跡に溜まった雨水に魚が発生する(写真集『Angkor Sacred Mountains of Kings』より)

ANG 1290-59

 アンコールの北東に位置するクーレン山。初代のアンコール王が即位式を執り行なった「聖地」である。この聖地クーレン山を水源とする川が2本、アンコールの都に向かって流れてくる。ロリュオス遺跡付近に流れてくるロリュオス川と、アンコールトムに流れてくるシェムリアップ川だ。
 

 この2本の川の水を支配するため、歴代のアンコール王のなかでも力のある4人の王が、それぞれ独自の貯水池を造営した。「インドラタターカ(9世紀末)」、「東バライ(10世紀初)」、「西バライ(11世紀中)」、「ジャヤタターカ(12世紀後)」。この4基の貯水池はどれも矩形で、西バライは面積が8km × 2.1km、 東バライは7.1km × 1.7km、ジャンボ旅客機の滑走路よりも広い。

 アンコール遺跡の碑文は貯水池の水を「海のような聖水」と謳っている。しかし1000年が経過した現在、西バライ以外の貯水池は干上がっていて、観光の対象にはなっていない。しかしもし水の枯れた貯水池跡に立ってみると、不思議な感覚にとらわれる。巨大な貯水池だったというのに、水を貯めた穴らしき凹みがないからだ。

 じつは、アンコールの貯水池はちょっと変わっていて、地面に穴を掘らない工法で造られたものだった。貯水池跡の地面を掘って調べてみると、地下の地層に人の手が入った乱れは認められない。さらに地面の土壌の放射性炭素年代を測定してみると、アンコール時代よりももっと古い。ということは、アンコール時代から地面はずっと同じ状態のまま、今まで続いてきたことになる。つまり貯水池跡に掘られた痕跡がないとなれば、今の地面が貯水池の水底となるはずで、それが放射性炭素年代測定によっても確認される。アンコールの貯水池は、地面に土を(5mほど)盛り上げて矩形の堤を築き、その内側に水を貯めていたのである。

ANGKO 1032-46

夕日を反射する貯水池西バライの水面

 


樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

写真家。アンコール遺跡にかかわる著書に『アンコールワット旅の雑学ノート(ダイヤモンド社)』『チャンパ(めこん)』『風景のない国・チャンパ王国(平河出版)』『7日で巡るインドシナ半島の世界遺産(めこん)』がある。
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