ホーム 過去のマガジン記事 写すシリーズ: アンコールでカンボジア正月を写す

カンボジアクロマーマガジン11号

カンボジアは4月14日‐乾季の猛烈な暑さの中で新年を迎えます。幸運にもこの時期にアンコールにやってきていたなら、変化に富んだ写真撮影が楽しめます。14日は早起きしてホテル近くのお寺に行ってみると、日本の初詣のように、人々が新年の参拝に訪れてきます。だれもが晴れ着姿で、手には僧侶への供物を携え、表情は明るく輝いています。カンボジアの文化に触れる美しく楽しい正月の写真が撮れるでしょう。

お寺の境内には、この日のためにアンコールワットの5本の尖塔を模した砂の山が築かれています。中央のひときわ大きな砂山と、その四隅に四つの小山。サイコロの「五の目」状のこの配置が、カンボジア人の昔からイメージしてきた世界の中心になる霊山、「須弥山(しゅみせん)」の姿です。アンコールワットやタケウ、そして東メボンなど5本の尖塔がそびえる遺跡を撮影してこの砂山の写真と並べると、アンコール遺跡の意味が視覚的に表現できます。

 

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バコン遺跡と正月の砂山

砂山には祭壇が設けてあり、参拝者は本堂に入る前にここでもお参りします。「昨年の悪い運に去ってもらい、幸運をもらうため」だそうです。祭壇には5本のローソク、五つの蓮の花、五つの円錐形状に織ったバナナの葉など、どの供物も五という数に統一されています。これらをアップで写すと、カンボジアの匂いを感じるきれいな写真になるはずです。

この日から16日まで、アンコールワットやバイヨンには 遠方から大勢のカンボジア人が観光にやってきます。せっかくのチャンスなので、遺跡を写すときは積極的に人を取り込んで写すべきです。またタイミングが良ければ、遺跡周辺の村人たちが遺跡に踊りを奉納するシーンにでくわすかもしれません。踊っている女性たちは、まるでアンコールワット壁面に彫られた踊り子の生の姿のようです。

 

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正月、ロレイに踊りを奉納する村人

正月はクーレン山にも大勢カンボジア人が訪れます。山には先祖の霊が棲むという信仰がカンボジアにあり、そのため昔は正月に山に登るしきたりがあったといいます。今は山登り本来の意味が失われてピクニックと化し、ピクニックに行くことが各家庭の正月行事の目玉になっています。クーレン山の大滝には水遊びする人が大勢いて、滝のスケールをだすには絶好の被写体になってくれるでしょう。

14日から16日まで続く正月は、どの家も米で作ったソバやチキンスープなどの正月料理を作り、豆と豚肉入り、そしてバナナ入りの2種類のチマキ風お菓子も必ず作ります。そんな正月料理ももし目にできたなら写す楽しみは倍増します。男女間で競う石なげ、綱引き、闘鶏なども正月ならではの遊びです。このように正月は興味深い被写体がたくさんありますが、人を写すときは、拒否される前に了解を得て、相手と気持ちを通わせてから撮影したいものです。

 


樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

写真家。アンコール遺跡にかかわる著書に『アンコールワット旅の雑学ノート(ダイヤモンド社)』『チャンパ(めこん)』『風景のない国・チャンパ王国(平河出版)』『7日で巡るインドシナ半島の世界遺産(めこん)』がある。
アンコール・ナショナルミュージアムでオリジナルプリントが購入できる。
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