カンボジアクロマーマガジン29号
写すシリーズ
王のきらびやかさを写す
樋口 英夫 (ひぐち ひでお)
玉座に座る王のきらびやかな様子
アンコールワット第一回廊南面に残るスーリヤヴァルマン(二世)王の浮き彫り
今年5月の新聞に次のような記事があった。「―――(略)知らなかったが、明日の立夏は「パラソルの日」だという。もっぱら女性の持ち物と思われてきた日傘を、近頃は男も差し始めているらしい(中略)。かつて西洋では、日傘は権力者のものだった。重いので召使いに捧げ持たせた。それが技術革新で軽量化され、女性の腕一本で持てるようになると、おしゃれの必需品として大流行したという。」
かつて西洋では(黒点は引用者)、と書かれてしまうと、「そうか日傘は西洋発祥のものか‥」と私たちはつい納得してしまう。文明の利器は西洋発祥という先入観があるからだ。だがアンコールワット第一回廊の浮き彫りにだって、日傘を従者に持たせる王の姿があるではないか。日傘は東洋発祥のものだ。さらに言えば文明の利器のほとんどが古代メソポタミアやペルシャやインドや中国が発祥になる。火薬だって印刷技術だって、宗教画のキリストがまとう柔らかそうな長衣すらそうだ。
じつは今、西洋を世界の中心とする西洋史観(私たちが学校で学んだ世界史)は否定され、音を立てるように崩れているのである。例えば「西洋の自由や人権、民主主義が移入されるまで東洋は遅れた土地であり、東洋の王は人民を奴隷のように所有していた」という西洋の歴史家の勝手な思い込みなどは、その最たるものだ。
アンコールワットの巨大な姿を眺めて、そこにむち打たれながら石材を運搬する哀れな人民を想像する人がいるとすれば、それは今もまだ古い西洋史観があなたを支配しているということだ。
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