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カンボジアクロマーマガジン18号

写すシリーズ
春分のアンコールを写す
樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

アンコールワットが太陽と深い関係にあることはあまり知られていません。神殿に祀られたヴィシュヌは太陽神ですし、神殿を建てた王の名も太陽に由来しています。いってみれば太陽はアンコールワットのシンボルです。そう考えてみるとこの神殿が正面を西向きにして建てられたこともうなずけます。

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春分の日の出はすべてを赤く染める

 

「正面が西向き」――これは数あるアンコールの神殿のなかでも異例です。わたしたちが目にするアンコール遺跡の神殿群はどれも「正面が東向き」に建てられています。おそらくアンコール時代の神殿建築は、正面を東に向けることが建築ルールとしてあったと思われます。そのルールに反してアンコールワットはあえて正面を西向きにして建てたのです――つまり人間たちがこの神殿を眺めるときに東が背になるように建てたのです。

それでは、なぜそんなルールに反したことをする必要があったのか、一体どんな意図があったのか?――。その答えは春分の日にアンコールワットを眺めているとはっきり感じ取れます。春分(秋分の日も)に、太陽は神殿の中心にそびえたつ巨大な塔の真後ろから劇的に昇ってくるからです。

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中心塔の真上に昇った春分の太陽

 

塔は地上65メートルの高さを持ち、アンコールワットの奥の院として重要な聖域です。ここの祠に太陽神(陽光の顕現)ヴィシュヌが祀られていました。春分の日の太陽はこの神聖な塔の真後ろから昇ってきます。地球の裏側から地平にあらわれでた太陽は、塔の陰にあるときですら強烈な深紅の光を放射して、地上のすべてを赤く染めてしまいます。 太陽と大塔の織りなすドラマは壮大なものです。 この瞬間に立ち会った者は、太陽が塔の陰から姿をみせた瞬間、宇宙に触れる原初的光景を目の当たりにした気になります。これがアンコールワットの正面を西向きにした設計者のもくろみだったに違いありません。アンコールワットと深い縁のある太陽を、しかも暦では最も神聖な春分(秋分も)の太陽を使って、神殿の荘厳をよりいっそう神秘的にさせようとしたのです。

2011年の春分は3月21日、この日から23日までの三日間はアンコールワットを撮影する最高のシャッターチャンスです。

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春分から三日後までこのような日の出が写せる


樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

写真家。アンコール遺跡にかかわる著書に『アンコールワット旅の雑学ノート(ダイヤモンド社)』『チャンパ(めこん)』『風景のない国・チャンパ王国(平河出版)』『7日で巡るインドシナ半島の世界遺産(めこん)』がある。
アンコール・ナショナルミュージアムでオリジナルプリントが購入できる。
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