カンボジアクロマーマガジン37号
山に息づく 少数民族の暮らし カンボジア北東部 高地クメール族
伝統を守る暮らし トンプーン族
カンボジア最北端のラタナキリ州は、十数の民族が集中している。中でもトンプーン族はクメール人を凌ぐ同州最大の民族である。古くから受け継がれてきた宗教や工芸、酒造など多くの高地クメール族の文化を、色濃く残している。
主な居住地:オーチュム地区、バーケオ地区、ルンファット地区(ラタナキリ州)
人口:約35,500人
生業:焼畑、狩猟採集、観光業
トンプーン族の暮らし
トンプーン族の聖地
ヤッロォム湖は同州の人気行楽地だが、湖周辺に住むトンプーン族にとっては重要な精霊信仰の場でもある。湖の畔に築かれた小さな祠には湖の精霊が祀られており、観光客に混じってトンプーン族の人たちが参拝に現れる。
この湖に住む「ネアックター・バーロマイッ・ベン・ヤッロォム」は、村に吉凶をもたらす精霊と信じられている。村に流行病や干ばつなどの災いが起きた時には、湖に家畜を生贄として捧げ、精霊の怒りを静めるという伝統儀式を行う。
壺に込めた誇り
米ともみ殻を蒸してから麹をまぶし、壺に詰めて半月から2カ月ほど熟成させてから水を入れて飲む。この「スラー・ピエン」と呼ばれる壺酒は、高地クメール族が共通して飲んでいる地酒で、トンプーン族の家庭では祭事や応接用として年に何回か醸造される。
ラタナキリ州の州都バンルン近郊のヤッロォム湖の湖畔、ローン村に住むヒーンテウ夫妻の仕事は、土産物用の壺酒造り。湖に遊びに来るクメール人たちが好んで買っていくそうだ。夫妻の酒造に対するこだわりは麹造り。最近は市場で買った麹を使う人が多い中、彼らは山の落ち葉や木の皮などから菌を採取して麹を作るという。市販の麹でもそれなりに美味いものになるが、「山から作ったものだけが本物のトンプーンの味」とヒーンテウさんは意気揚々に語る。
死者を守る木像
バンルンの北30kmほどを流れるサン川流域にあるカチャン村には、トンプーン族が先祖代々守って来た墓地がある。集落から少し離れた静かな森の中、ぽつりぽつりと木でつくられた家屋型の墓標。その前に男女二体の木像が佇む。鮮やかな塗料とユニークな木彫で彩られた墓には、夫婦の御霊が眠っている。
墓前に立つ木像には墓守の意味がある。かつてトンプーン族には村人が死ぬと、埋葬後に墓が朽ちるまで、死者の親類が墓守をしなければならないという風習があったそうだ。それがいつしか木像に代わり今のような形になったと言い伝えられている。