ホーム 過去のマガジン記事 クメールロック・ア・ゴーゴー!: 第3回 シハヌーク前国王が愛した海辺

カンボジアクロマーマガジン44号

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 60-70年代のミュージシャンを中心に、イカしたクメールロックを紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、カンボジアを独立へ導き、国家元首も務めた一方、音楽や映画を愛したノロドム・シハヌーク前国王だ。前国王は、歌をはじめ、ピアノやクラリネット演奏もこなすほか、作曲も堪能だった。生前に残した約50曲の中から、『Beaute de Kep』(美しきケップ)を紹介する。

 沿岸部の静かなリゾート地・ケップは、前国王にとって思い入れのある場所だった。植民地時代のフランス人指導層にならい別荘を建て、プノンペンさながらの音楽祭も開いたという。「カーブを描く海岸線 心を揺さぶる島々」という歌い出しのこの曲では、ケップの穏やかな土地柄を優しく歌い上げている。

 ところが『Beaute de Kep』には、全く違った印象の”オーケストラ版”が存在する。前国王の楽曲郡を、旧東ドイツの国営レーベル「AMIGA」がオーケストラで収録した『Palmes au bord de la mer』(海辺の椰子の木)にて、B面のトリを飾るのがこの曲なのだ。軽快なリズムの上をフルートやピアノが跳ね回り、ストリングスに至るまでが汗ばむような熱量。ヴォーカル版の間奏にあたる部分で一度リズムがブレイクし、トランペットがギアを入れ直すと、あっという間に2分を駆け抜ける。

 かつてケップを賑わせた別荘郡は、内戦を経て軒並み廃墟になった。オーケストラ版『Beaute de Kep』の圧倒的な密度と矢のようなテンション。その一瞬の輝きもまた、ケップなのかもしれない。

“King Norodom Sihanouk”『Beaute de Kep』
www.youtube.com/watch?v=VSecGtmntsE

周防 周大(すおう しゅうだい)

カンボジア在住を機にクメールロック・ポップスの魅力に出会う。尊敬する人はシン・シサモット。好きな女性のタイプはロ・セレイソティア。

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