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カンボジアクロマーマガジン12号

スバエク・トム-シエムリアプの村に伝わる影絵芝居-

[写真/文]福富 友子 [制作]クロマーマガジン編集部

 

 シエムリアプ州には、スバエク・トムという影絵芝居の伝統があります。スバエク・トムは「大きな皮」という意味です。その言葉通り、大きな牛の一枚皮に透かし彫りをして作った人形を操り、その人形と遣い手のシルエットをかがり火の炎でスクリーンに映し出す、壮大で幻想的なお芝居です。2005年にユネスコが「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」として宣言し、2008年11月には「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に載せられました。いまや、カンボジアを代表する伝統芸能として世に発信されるようになったわけです。けれども、この芸能がいつから、カンボジアのどこでどんなふうに演じられていたのかはぼんやりとしたままです。アンコール時代からあったという説もありますが証拠らしい証拠はなく、宮廷舞踊のように王の庇護の下にあったのでもなさそうです。ただ確かなことは、ある時期から、この芸能がシエムリアプの村で、人々に支持されてきたということです。

そんなスバエク・トムと、それを支えてきた人々について紹介してみたいと思います。

新鮮な牛の皮で作るスバエクの人形

スバエク・トムの人形作りは、まず皮なめしから。これは朝早くからの作業です。新鮮な、つまり剥ぎたての牛の皮を地面に広げます。たるみがでないようにぴんと張り、竹を削った杭で地面に留めます。皮がしっかり広がったら水をかけて軽く全体の汚れをこそげとり、それからナイフで丁寧に、皮の内側についている膜や脂肪をはがしていきます。弾力のある白い面がきれいに残せたらしばらく乾かし、樹皮を煮出した液を塗りこみます。一日で乾かしてしまわないと後々まで動物臭が残るので、コツは快晴の日を見定めてすばやく作業すること。最後に、毛を鉈かグラインダーで削り落します。こうして皮の準備ができて、ようやく人形が作れます。

 白い塗料で細かな下絵を描き、何十本と種類のあるノミで穴をあけてゆくのは集中力を要する仕事。平静な気持ちでなければできないし、気持ちが入れば夜中になってもやめられない。家族はつい「時間決めて作業したらどうなの?」などとやきもきしますが、職人のペースは黙って見ておくのがよさそうです。
 スバエク・トムの人形は全部で150体ほど必要ですが、一座に1セット揃っていればよいので、作るのはネズミが齧ってしまったり長年の使用で傷んだものを修復する場合です。その他は注文に応じて。大阪の国立民族学博物館にもシエムリアプの職人の手によるスバエク・トムが揃っているんですよ。日常的には、アプサラや象をモチーフにした壁飾りや、小型の影絵芝居に使う人形を土産物用に作っています。工房への道を行くときにカンカンカンとノミの音が響いてくると、どんな作品に取りかかっているのかとわくわくします。vol12_f3_sub_01-01           下絵に沿ってノミで彫る作業vol12_f3_sub_01-02           炎天下で牛の皮をていねいに処理する

スバエクが演じる「リアムケー」物語

 スバエク・トムの演目は、『リアムケー』という物語です。これは、インドの大叙事詩『ラーマーヤナ』のカンボジア版。インドから伝えられた物語が、カンボジアの人々の生活の中で登場人物やエピソードの細部を変えながら、カンボジア独自の物語となったものです。筋書きは、妻を魔王にさらわれた王子リアムが、妻を追い、猿の王族たちを味方につけて魔物の島へ攻め込むという長い長いお話です。スバエク・トムではこの中から、魔王の長男アンタチットと、リアムの弟レアクによる戦闘を7つのエピソードに構成して演じます。各エピソードで魔物側の新たな策略が試され、レアクが危機に陥り、ハヌマーンや鳥の王クルットが助け・・・そして最終章でアンタチットが死を迎えスバエク・トムの上演は終わります。戦闘を描きながらも、全体を通しては家族愛や別れの悲しみ、義理や人情、切ない恋など人間的な感情を表現しているのがスバエク・トムの特徴です。
 人形を操るのは遣い手ですが、韻文詩と散文詩を朗唱して物語を進行させるのはふたりの語り部です。詩の語りがひとくさり終わると、打楽器を中心とする古典音楽の演奏が始まり、遣い手たちはその音楽に合わせて行軍し、闘い、変化(へんげ)し、嘆きます。遣い手と語り手、音楽、そして炎のゆらめきが合わさって、物語は進んでゆきます。vol12_f3_sub_02-01           死を前にした魔物アンタチットが妻子を抱きしめて別れを告げる場面

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