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カンボジアクロマーマガジン27号

プレア・ヴィヘア入門

[文] 石塚 充雅  プレア・ヴィヘア機構・名城大・早稲田大 共同チーム

 01 概要 -Outline-

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プレア・ヴィヘアはカンボジアとタイの国境をまたがるダンレック山脈上に位置している寺院です。寺院全体の配置は山脈の傾斜を利用して配されており、寺院の中心はちょうど山脈の頂に位置しています。本寺院の名称はクメール語の「Preah」 =「神聖な」、「Vihear」 =「寺院」という語が合わさって「神聖な寺院」という意味があります。また、他方タイ側ではカオプラヴィハーンの名で親しまれており、こちらも「神聖な寺院」という意味です 。

 

建造時期については、建築史、美術史及び碑文研究の成果から約300 年間の間に何度も増改築が行われていたと言われており、おそらくヤショヴァルマン Ⅰ世(889 – 910) の統治下で建造が始まり、スールヤヴァルマン Ⅱ世(1113 – 1145) の時代で終わったと考えられています。

 

この寺院は2008年7月にカンボジア第二の世界遺産として登録されましたが,その後,カンボジア-タイの国境問題により,数年間の封鎖を強いられてきました。外務省からは通常の観光客に対して「渡航の是非を検討するように」といった注意喚起が現在も出されていますが、一昨年後半から情勢が安定し始めており、少しずつ観光客が増加している状況にあります。後述するように、プレア・ヴィヘアについては、これまで多くの研究がなされてきましたが、まだまだ不明な点も多いため、2012 年より、プレア・ヴィヘア機構と早稲田大学、名城大学の協力により、基礎的な調査研究が進められています。今回は筆者が参加したその調査成果をもとに報告します。

 

27-f1-1 中央祠堂内部 と 第五ゴーブラ北参道

 

 02 レイアウトから見るプレア・ヴィヘア -Layout-

クメールの中~大型寺院については平面方向に関しては中央祠堂を中心として同心円状に広がる形式、中央祠堂から一直線上に各遺構が配置されている形式、立面方向に関しては平地に作られる形式、山脈の傾斜を利用して配置されている形式、そしてアンコール・ワットやタケオやバプーオンのように山を模して作られている山岳形式に大きく分けられ、これらの要素を組み合わせることにより、寺院の配置・外形が決められています。プレア・ヴィヘアは山脈の傾斜を利用して一直線上に配置された寺院となっており、自然の地形を利用しながら南北に延びるような形で配置されています。

 

寺院の向きについてですが、クメールの寺院では一般的には東を正面として配置されるのが常ですが、プレア・ヴィヘアは北側が正面となっており、その方位はほぼ真北を示しています。このようなレイアウトを取るようになった理由としては一つは北方に延びる山脈の傾斜にあると思われます。ただし、頂部に十分なスペースがないかといえば、むしろそうではなく、寺院西面には大きなスペースが空いています。そのため、アンコール地方で通常見られる同心型の寺院を造営することも可能ではあったと思いますが、あえてそのような構成にはしなかったようです。

 

また、北からの参道以外にも第五ゴープラ東西には古代の参道が配置されています。特に東側の麓まで続いている石造の参道は現在一部崩壊した状況にありますが、近年整備が進み、参道に沿って木造の階段が整備されており、この階段を使って麓まで下ることができます。この参道の東端北側の岩盤上にはリンガ・ヨニの彫刻がみられ、さらに参道の先には人口の貯水池、そして古代の集落があったことが確認されています。そのため、この東側の参道が北側の参道同様、あるいは北側の参道の先には麓に通じる道が現在確認されていないため、それ以上に古代よりプレア・ヴィヘアに通じる参道として重要な役割を果たしていたことが理解されます。

 

プレア・ヴィヘアは山頂に位置するという立地条件にあるためか空模様が変わりやすく、雨季には霧が立ち込めることがよくあります。その霧が立ち込めた状態の遺構もかなり幻想的ですが、さらに霧が晴れた山頂の寺院と地上の風景が重なるとなぜクメール人がこの場所に寺院を建造したのかがわかるような気がします。

 

feature1_3霧がかった様子

 

feature1_4プレア・ヴィヘアが位置するダンレック山脈

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