ホーム 過去のマガジン記事 特集: プレア・ヴィヘア入門

カンボジアクロマーマガジン27号

プレア・ヴィヘア入門

[文] 石塚 充雅  プレア・ヴィヘア機構・名城大・早稲田大 共同チーム

 04 痕跡から見るプレア・ヴィヘア -Layout-

feature1_10扉の痕跡 と 穴の痕跡

 

寺院内には当時の建造過程を復原的に考察する上での手掛かりとなる痕跡が多く残されています。

 

例えば、寺院の内部で痕跡を探してみると、扉枠周辺を建物内部から見てみた場合、扉枠上辺両端部近く、そしてその足元には穴があいているケースが多く見られます。これは一般的に木の扉の痕跡だと言われています。こういった痕跡はアンコール遺跡群内でもよく見られます。プレア・ヴィヘアの中で、この扉枠の痕跡で面白いのは第四ゴープラです。この建物の扉枠を同じように見てみますと、なぜか南側の扉の痕跡は建物の外側についています。一般的には扉が建物の内側につけられるクメール建築においてなぜ第四ゴープラ南側がこのような形式を取るのかまだ分かりませんが、こういった一般的な配置とは異なっている点を見つけることにより、建物の特徴が少しずつ明らかになっていきます。

 

次に建物の床面に目を向けてみますと、建物の中心付近に線がうっすらと、しかしまっすぐに引かれているのが見えます。こういった線は一般的には寺院の建造の際の計画線ではないかと言われています。

 

また第四ゴープラから第三ゴープラに続く参道の両脇には列状の土の盛り上がりが続いており、その延長線上の第四ゴープラの壁には何かが当たっていた痕跡がみられます。そのためここにもその昔には何かあった可能性があります。

 

さらに第四ゴープラ北側階段周辺には大きな列状の穴の痕跡があります。こちらについては装飾的な要素のための穴であり、高僧が各段に旗や傘を配していたという指摘をしている研究者もいます。ただしこれらの穴が列状に並んでいるため、現在の構造物上に木造の構造物に配され、さらにその上に参道が配置されていた可能性も考えられるかと思います。

 

こういった痕跡の中で、プレア・ヴィヘアで重要な痕跡の一つは屋根にある痕跡です。現在、プレア・ヴィヘアの寺院の中で屋根の形状が確認できるのは第一周壁と中央祠堂の部分のみですが、その痕跡を追ってみますと、当初は木やレンガを使用して、屋根を造営していた痕跡が伺えます。これまでの研究によりますと、砂岩造の屋根のほかに煉瓦造の屋根(疑似ゴープラ、経蔵)、木造小屋組・煉瓦葺き屋根(第三ゴープラ)、木造小屋組・瓦葺き屋根(第一ゴープラ、付属建物、第二ゴープラ、第二回廊、第四ゴープラ、第五ゴープラ、宮殿)といった少なくとも4種類の屋根構造が混在していたとされています。ただし、プレア・ヴィヘア周辺では岩盤が露出しており、当時石を切り出していたと思われる石切り場の痕跡も見られるため、石材に困るような状況ではなかったと思われます。このような状況下で、あえて他の部材を使用した理由としては、石材に比べ比較的軽い素材である木やレンガを使用することにより、荷重を軽減する意図があったことや当初は木造の建造物が建てられていたこと、さらに煉瓦に関しては木造から砂岩造に置き換えられる際の過渡期的性質であること等の理由が考えられます。

 

また、もう一つ重要な痕跡が寺院の増改築の痕跡です。例えば壁の目地をよく見てみると、壁がきれいに2つに分かれる箇所があります。あるいは第一ゴープラと回廊の接続部上部を見てみると四角い痕跡があり、これらは当時の木造屋根の痕跡だと考えられています。このような増改築の痕跡が寺院内には残されており、これらの痕跡と碑文研究の成果と合わせた結果、7度の増改築があったということがプレア・ヴィヘア研究のマスターピースとなっている「クメール古典美術」を書いたパルマンティエによって提示されています。ただし、このプロセスに関しては近年見直しが進められており、現在もまだ正確な増改築の様子は十分には分かっていません。

 

また、遺跡の各所に銃痕や塹壕の跡がみられ、近年の紛争の傷跡が今もまだ残されています。

 

以上のように、痕跡には遺構が積み重ねてきた歴史が刻まれているため、痕跡について考えることは遺構を読み解く重要な作業につながっていきます。

 feature1_12煉瓦屋根の痕跡

 feature1_13第二回廊の増築の痕跡

続きを読む 1 2 3 4


Facebook にシェア
Pocket
LINEで送る

facebookいいね!ファンリスト

クロマーマガジン

素敵なカンボジアに出会う小旅行へ―The trip to encounters unknown cambodia