カンボジアクロマーマガジン39号
人生迷走中
第17回:どっちの水が甘いのか?
クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)
カンボジアに住んで軽く10年が過ぎ、もうすぐXX年になろうとしている(恥ずかしいので詳細は伏せます)。この国で人生の数分の一を過ごしてしまった結果、カンボジア人の笑顔とか、良い意味のテキトーさとか、ゆったり流れる時間とか、若い頃、感激していたプラス要素は既にもうお腹いっぱいで、悪いところばかり目につくようになってしまった。
休んでばかりで根性がなく、プライドと選民意識だけは一人前のホワイトカラー。客の目も見ず、商品を投げて寄越すならず者の店員。コーヒー1杯で店のネットインフラを独占し、何時間も自撮りとFBに精を出す自意識過剰な若者たち。どこに行っても同じメニューなローカルフード。コンビニで平然と割り込まれてイラッ。
そこへ行くとお隣のベトナムは立派な先進国だ。勤勉だし、メシはヘルシーだし、手先も器用。用あってハノイとホーチミンに半月近く滞在することになった私は、プノンペンで日々感じるイライラやストレスから逃れられるのでは……と淡い期待を抱いていた。
ところがだ。摂氏42度のハノイでは、最初に乗ったタクシーに徒歩15分の距離を町を半周する勢いで回り道され、嫌気がさしてバイクを借りて運転してみたら、プノンペンの交通マナーが洗練されて見えるほど無軌道かつデタラメ。背後から狂ったようにホーンを鳴らされ、強引に割り込まれ、毎度、同額の紙幣を渡しているのに、ガソリンスタンドで注がれるガソリンの量は激しく異なり、缶ジュースを買えば日本より高く(暑すぎて抗議する気も起きない)、おこわ屋は涼しい顔で倍ぼったくってきて──。
ハノイ、むかつく! と、ホーチミンに逃げ込んだ私。ホテルを出るなり行きずりのインド人から「日本の札は何色なんだ? 見せてくれないか?」と声をかけられ、初印象は最悪。
ファングーラオの公園前で目撃したメコンバスのクメール文字に何故か癒されていると、少々頭のユルそうな笑顔が特徴の少年から靴磨きのセールスを受けた。丁度靴が汚れていたこともあって、ちょっと高いなと思いながらも2万5千ドンで交渉成立。靴磨きを頼み、そいつのサンダルを借りて近くのサブウェイで涼み、ふと顔を上げると……いつの間にか私の靴の周りに人だかりが出来ている。
びっくりして店を飛び出し、駆け寄ると、なんと4人の靴磨きが私の靴をいじくり回し、莫大な額のオプション料金を請求してきやがった──というわけで、頭がユルいのは自分だったってわけ。皆さんもお気をつけを。さて、ハノイとホーチミンで世話になったベトナム人通訳はそれぞれ、おしゃれなカフェでスマホをいじる最先端な若者たちを一瞥し「働きもせず、親からタカったお金で一日中ここにいます。ゴミです」と全く同じセリフを吐いていた。隣の水は甘くて苦いというけど、カンボジア、捨てたもんじゃないかも。
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