カンボジアクロマーマガジン37号
人生迷走中
第16回:あるアメリカ人の悪夢
クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)
英語が堪能な知人の助けを借りて、プノンペンで暮らすアメリカ人を取材した──。毎日、徒歩1時間かけてラッキーバーガーに行くのが生き甲斐という78歳の老人。会ってみると、周囲に優しさがモワモワ漂う素敵な笑顔が特徴の、実年齢より15歳は若く見える高身長の男前。でも、金は無さそうだった。
ハワイ在住の大工だった彼は、今から10年ほど前、仕事で知り合ったカンボジア人に誘われ、初めてプノンペンの土を踏んだ。で、いきなり一人のカンボジア人女性を紹介された彼は、瞬く間にのめり込んでしまう。それもそのはず、相手は実に45歳も歳下の23歳。会ってすぐさま「アメリカに帰らないで! 私と結婚してえ!」と泣きついてきたこの胡散臭い女に、彼は全身全霊で頷いてしまった。
自国民を人身売買から守るため、カンボジアでは外国人との歳の差結婚に厳しい制約がある。しかし彼らは幸運にもゴールイン。孤独な独居老人が、どんでん返しのウルトラ歳の差結婚。これぞ男の夢。引き換えに、生涯貯めた全財産を捧げてしまうことになるのだけど。本当に幸運だったのかなあ……。
結婚式の直後、この国の伝統的な決まりですとばかり、バイクとクルマ、返す刀でマイホームを二軒も買わされてしまう彼。愛する妻はプノンペンの新居を放置したままハワイに移住。市民権を取得し、申請用紙を山と積んで、夫そっちのけで親族をひとり、またひとり、次から次へアメリカに移住させる作業に没頭した。
そのたびに身元引受人を嫌々させられてきた彼も、あまりの節操の無さに呆れ果て「俺は身元引受人をするために結婚したんじゃない」と宣言。妻をハワイに残し、抗議の意味で単身プノンペンに住み始めてしまうが……ある日妻から、こんな国際電話が入った。
「姪の一家をアメリカに呼びたいから、あなたと離婚して姪の旦那と偽装結婚するわ。離婚しても、あなたへの愛は永遠よ」
話が複雑すぎて彼も私も理解できなかったが、理屈では可能らしい。しかし、その姪の旦那ってのは実は妻の元カレ──なんて匿名のタレコミも入ったりして、彼はいま、人間不信のどん底状態。
うなだれながら、財布から妻の写真を取り出し、悲しそうに見せてくれたのはいいとして、それがきちんとパウチしてあるのが、また色々な意味で痛い。プノンペンの親族は、真新しい高級車やバイクでグルメ三昧。金を出した張本人は徒歩でラッキーバーガーという、東南アジアにありがちな光景。
彼はいま、これまで突っ込んだ財産を取り返そうと、密かに動こうとしている。だけども、そんな企みができるならそもそも騙されないわけで、すでに妻の一族からマークされ、親戚からわけもなく顔写真を撮られりしたそうだ。顔写真と聞いて、トゥールスレーンの展示を思い出した私、恋愛は歳相応にしておきたいものだ。
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- 第16回:あるアメリカ人の悪夢 カンボジアクロマーマガジン37号
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