カンボジアクロマーマガジン33号
人生迷走中
第14回:プノンペンのペットたち
クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)
一度でもカンボジアに来たことのある人なら、街中を徘徊する野良犬を見たことがあると思う。自動車が増えたせいか、プノンペンの野良犬は一時期より減った感があるが、中心部を離れると今でも群れをなしている。使い古しのモップみたいになったマルチーズとか、日本であまり見ないタイプの野良犬が多いのも特徴。カンボジアでは飼い犬も日中は放し飼いにされていることがほとんどで、野良犬と区別がつかないのも紛らわしい。
さて、残念なことだが、この国では動物にしつけをする習慣があまりない。簡単に言うと野放し。なので非常に危険だ。シェパードやロットワイラーなど、物騒な犬が通りをうろついていたとしよう。彼らが躾けられている可能性はほとんどゼロ。それでいて、予防接種済みである可能性もゼロに近い。
要するに、あなたがどれだけ犬好きだろうと、ストリートの犬には触れないほうが身のためだ──ということ。私の周りだけで三名が噛まれているし、噛んだ犬の素性がどうであれ、飼い主が責任を取ることなどまずありえない。
そんな私もプノンペンで大型犬を飼っている。
飼い始めは片手で持ち上げられる程だったが、半年も経つと日に日に巨大化。制御できかねるほど大きくなり、近所の子どもたちを食い殺さないか心配な私は、プロに調教を依頼しようと思った。
調教師を探していたところ、あるカンボジア人から「すばらしい調教師がいる」という情報をゲット。早速、キリング・フィールド近くにあるスラムの調教所へ向かった 現れたのは迷彩服の軍人風オヤジ。そばにドーベルマン、ロットワイラー、ボクサーなどのおっかない大型犬が10匹ほどいた。犬たちの落ち着きの無さが気になったが、他に心当たりもなく、思い切って預けることに……。期間は二ヶ月、食事付きで料金は350ドル。高いのか安いのかさっぱりわからなかった。
それから二ヶ月後。私は自分の犬を受け取りに行った。
スリムだった愛犬は、なぜか胴体ばかりブクブクに太っていた。米の飯ばかり食わせたせいか、お盆のキュウリとナスみたいな体型になっていた。しかも、預けたとき以上に落ち着きが無い。
ツバを飲み込み、何を仕込んだのか訊ねると、調教師は開口一番、鋭いカンボジア語で「座れ!」とひと言。犬はスタッと座った。
ほ、他には? そう訊ねると「これだけだよ」という恐ろしい返事が……。うそのような本当の話である。
にわかに信じられないが、カンボジアでは無駄吠えする犬にプロザック(抗鬱剤。むろん人間用)を飲ませる習慣があるという。すぐ薬に頼る傾向は、人間だけじゃなかった……。
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