カンボジアクロマーマガジン29号
人生迷走中
第12回:バイオレンスなペットショップ
クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)
プノンペンの南・ボントラバエク地区に、知る人ぞ知る、恐ろしいペットショップがある。
ボントラバエクプラザ脇を流れる薄汚いドブ川にかかる橋を渡り、ガタガタ道を歩くこと数十メートル。偶然か皮肉か、ドブ川の周りには犬肉屋台が多数点在する……。
近づくにつれ、どこからともなく耳に突き刺さる犬たちの悲鳴。この悲鳴の発信源こそが、今回ご紹介するお店。参考までに、今回の写真がどこかビクついた構図に見えるのは、堂々と笑顔で撮れるような雰囲気じゃなかったから。予めご了承を……。
もともとは看板すらない、錆びついた檻がただ並ぶだけの殺風景な店だったが、久々に訪れてみると、犬写真をコラージュした可愛らしい看板が付いて、犬の数も激増していた。
手前の檻には可愛らしい小型犬と子犬たち。だが、奥にはロットワイラーだのドーベルマンだのシェパードだの、凶暴な大型犬(しかも成犬)ばかりがてんこ盛り。どの犬ももれなく、しつけのしの字もされておらず、吠えまくりの暴れまくり。殺意のこもった眼差しでコチラを睨んでいる。
ここだけの話、奥の成犬たちは繁殖用の種犬。読後感を良くしたいので詳細は記さないものの、どこぞの動物愛護団体がこの店の存在を知ったら、全勢力をもって潰しにかかること必然の扱いを受けている。
店内は、ペットショップと言うより映画「悪魔のいけにえ」に近い雰囲気。奥のカウンターには体重100キロ、険しい顔の女親分と、彼女の長男とおぼしきド派手なシャツの胸元を大胆に第四ボタンまではだけた、どうひいき目に見ても堅気と思えないファッションの若社長が仁王立ちで店員たちに睨みを効かせている。
4〜5名いる店員は、全員腰パンのやさぐれチンピラ風。若社長に怒鳴られながら、デッキブラシを手に行ったり来たり。虚ろなまなざしで床をゴシゴシ。
そんな若社長の両頬には、真新しい獣の歯型。何者かに顔面を噛み付かれたのだろう。傷口には赤チンが塗りたくられ、そんな男が落ち着きなく視線を動かし、ダミ声で次から次と指示を飛ばしの……。早い話、地獄のような店だ。
目を合わせるにも勇気が必要なチンピラ揃い。こんなに殺伐としたペットショップは最初で最後かも。それでも折角来たのだからと、恐る恐る、近くの檻にいたブルドッグの値段を訊ねると──。
「売らねえよ! こいつァ売らずに増やすんだ! ヒッヒッ」
にべもない若社長。そうすか……と二つ返事で帰ろうとするや、背後からすがるような声で「や、やっぱ売るよ! 250ドル!」と、やや悲痛な声が。もちろん、聞こえないふりをして逃げました。
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