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カンボジアクロマーマガジン25号

人生迷走中
番外編:ママチャリ運んで三千里
クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)

 

久々の日本里帰り。荒廃した実家の庭をほうきで掃いていたそのとき、打ち捨てられた一台のママチャリと目が合った。
 乗る人おらず、雨ざらしのお買い物チャリ。まじまじ眺めてみれば、ベルトドライブの高級ママチャリ。アルミフレームの効能か、二年あまり露天放置にも関わらず錆びひとつない。流石、腐っても日本メーカーと感心させられた。
 私がプノンペンで愛用中の中古チャリ「死神号」といえば、ペダルはすべる、ブレーキすべる。二分後に死んでもおかしくないゴミ一歩手前の代物。カンボジアに戻る七日前。悩みぬいた挙句、私は庭のママチャリをプノンペンまで持ち帰る決意を固めた。
 航空会社はずばり「エアアジア」である。機内預け荷物の重量超過には、行き遅れのオールドミスもたじろぐほどに厳しいエアアジア。だが自転車・サーフボードなどには「スポーツ用品」という特別枠が用意されており、事前にウェブ上で申請すれば通常の荷物より割安の料金で運んでくれる。
 チャリの重さを25キロとして、羽田からプノンペンまでの運び賃は約60ドルちょい。参考までに私のママチャリは16キロ。
 航空会社によっては「折りたたみ自転車に限る」だの「縦横の最大寸法は××センチ」だの、色々と制約はあるものの、エアアジアはそのへんとっても寛容だ。前輪を外して輪行袋(自転車用の持ち運びバッグ)に入れれば、とりあえず乗せて行ってくれるらしい……らしい! そう、あくまでネットの体験談にすぎません。
 ちまたの輪行袋は一般的にお高いロードバイク用。そもそもママチャリを入れるための設計はされておらず、友人とふたり、真夏の夜中に身体中蚊に刺されながら前輪・後輪を取り外し(組み立てのとき、途方に暮れないよう写真やビデオで分解工程を記録しておくこと)、無理やり詰めて、今にもはちきれそうではあったが、どうにかこうにか収まった。
 出発当日、渋るタクシーとバスの運ちゃんを拝み倒し、二回合掌ののち羽田空港到着。緊張で震えながら旅行者をかき分け、引越し中のインド人みたいな風体でチェックインカウンターへ。ここまで来て断られたら、空港に捨てて行こうと決死の覚悟であった。
 ところがである。カウンターのお姉さんは慣れた様子で拍子抜け。巨大輪行袋(ママチャリとは恥ずかしくて言えず)を見ても笑顔を絶やさず、我が自転車は巨大荷物用のレーンに吸い込まれていった。
 エアアジアのプノンペン線は、マレーシアのクアラルンプールで8時間あまりの乗り継ぎがある。幸い、チャリはKLをスルーしてプノンペンに直行。到着後、ベルトに放り投げられたママチャリを発見したときは、山登りめいた達成感もひとしお。だけどこれ、自分で組み立てられるのか? 俺、やったことないんだけど。

注・結局、郊外の自転車屋に5ドルで組み立ててもらった。で、同じ店に私と全く同じモデルのチャリが150ドルで売っていた。しかも、そっちの方がキレイだった……。


クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)

プノンペンの土を踏んで早十うん年。
著書に「裏アジア紀行(幻冬舎)」「エネマグラ教典(太田出版)」「乱世のサバイバル教典(太田出版)」「デジタル・スーパースター列伝(ILM)」など。生活のため、日々冒険を続けてます。新刊「アジアの路地裏に魔界を見た!」ほか、アマゾン・キンドル専用の海外脱出情報誌「シックスサマナ」発売中。
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