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カンボジアクロマーマガジン40号

カンボジアシルク 時を越えて受け継がれる伝統

[取材・文・撮影] 多賀 史文 [撮影] 岡 克哉 [制作] 田中 友貴(クロマーマガジン編集部)

 民族を彩る絹絣「ホール」

カンボジアでは民族衣装の平服として、サロンやクロマーといわれる木綿製の腰布が着用されてきた。一方で宗教行事や祭事などの際にはシルク製の礼服が用いられ、その種類は用途や階級によって多岐に渡る。その中でもカンボジア人女性の代表的な正装、サンポットと呼ばれる巻きスカートによく用いられるホールは、カンボジアで最も多く織られてきたシルクのひとつである。

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法事へと向かう村人たち。ホールはカンボジア人女性の正装として親しまれている

 ホールは幾何学模様に加え、花や唐草、動物など大小様々な柄を組み合わせたシルクの絣だ。染料には伝統的にガンボージの藤黄色、ラックカイガラムシの燕脂色、木藍の藍色を用い、それらを重ね染めすることで緑や黒を作り出す。そしてこれらの5色で横糸を防染して作り出されるホールの伝統柄は200種にも及ぶ。また年配女性のためのやや地味なもの、新郎の結婚衣装として織られる華々しいもの、カンボジア・イスラムのチャム族の間で織られる大胆な柄のものなどもあり、ホールはカンボジアシルクの中でも特別多様な一群である。

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チャム族が織ったホール。大きな柄を用いた飛び柄が特徴。

 「パムアンとチョラバップ」

絣とは別にカンボジアシルクには綾織※5の技術がよく用いられる。中でもパムアンは3枚の綜絖※6を用いて縦横異なる色の絹糸を綾織し、柔らかな質感と玉虫のような光沢を持たせた布だ。このパムアンはサンポットやチョーン・クバンと呼ばれる巻きズボン、男性の正装の上着など様々な民族衣装に用いられている。

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左:伝統舞踊の衣装を身につける踊子
右:アンコール王朝時代の衣装の復元。腰布と巻きズボンにそれぞれチョラバップが用いられている

 また22枚もの綜絖を使い、金糸や銀糸、絹糸の紋柄を織り込むチョラバップは、カンボジアシルクの中でも最も煌びやかな布で、結婚式や踊り子の衣装、王族の着物などに用いられてきたものである。

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左:チョラバップはパムアンに絹糸で模様を織り込んだものである
右:燕脂色に縦糸と深緑の横色を綾織りした、コーティア(家鴨の首)と呼ばれるパムアンの伝統配色

※5 縦糸と横糸を交互ではなく、一度交差したあと一本飛ばして織る織り方
※6 織機で、横糸を通すめに、縦糸を上下に分ける器具

 

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