カンボジアクロマーマガジン34号
カンボジア経済
24回目:コメ大国を目指してライス・ポリシー
鈴木 博(すずき ひろし)
カンボジアと言うと、貧困と飢餓のイメージが強く、今でも日本から日本米を送って支援して下さる方々もいらっしゃいます。しかし、実はカンボジアは、既に自給に必要なコメの2倍以上を生産し、コメの一大輸出国を目指しています。この動きを促進するために、カンボジア政府は「ライス・ポリシー」を策定し、様々な努力を続けています。
カンボジアのGDPに占める第1次産業の割合は、3割弱となっています。また、全人口に占める農村部人口の割合は約8割、労働力人口に占める農林水産業の割合は約7割となっています。
農業の中心は、稲作で、コメが主要作物となっています。多くの地域で灌漑施設が不十分なため、天水に頼っており一期作しかできていません。灌漑ができている地域では、2期作(雨季:4月~11月、乾季:12月~3月)が行われていますが、乾季作は全体の2割強に留まっています。内戦直後の1992年頃は、自給に必要な約400万トン(籾ベース)の半分の約200万トン強の生産でしたが、2000年ごろに自給を達成し、2012/2013年度には、自給必要量の2倍以上に当たる930万トン(籾ベース)を生産し、余剰は473万トンに達しています。統計上は明確ではないものの、このうち300万トン以上が籾のまま隣国に非公式に流出しているものと見られます。単収は、伸びてはいるものの3.11トン/haと、日本の約6トン/haと比べると半分ほどに留まっています。
農業の振興は、カンボジア政府にとっても最も重要な政策の一つとなっています。更に、「米の生産と輸出の振興政策」(通称「ライス・ポリシー」)が、2010年8月17日にフン・セン首相より発表されました。この中で、首相は、カンボジアを世界の米櫃(ライスバスケット)にするとの野心的計画を強調しています。計画では、目標年の2015年までにコメの余剰を400万トン以上とし、少なくとも100万トン以上を精米で公式に輸出したいとしています。この目標達成のため、生産性の向上、多様化・商業化の促進が政策の主要な柱として掲げられています。具体的には、①灌漑・道路・市場基盤の整備、②農業技術の向上、③金融アクセスの改善、④農業関連投資の促進が重要とされています。
ライス・ポリシーの下で、コメの生産、輸出を促進するため、灌漑、生産、加工(精米)、流通、輸出の各段階で様々な取り組みが行われてきました。日本政府も、灌漑施設改修のために円借款を供与したり、様々な技術協力を行う等して、カンボジア政府の政策に協力してきています。
これらの努力により、余剰400万トン以上の目標は2013年に達成しました。精米の輸出量も2013年には40万トンにまで増加してきています。民間では、政府が明確な政策を打ち出してくれたので安心して投資ができると評価しています。特に精米部門では、まとまった投資が行われており、国際水準の精米が可能な施設の総合計精米能力は、既に100万トン/年を越えているものと見られます。
このように成果を上げつつあるライス・ポリシーですが、課題も指摘されています。第1の課題は、精米所の運転資金の不足です。第2の課題は、農家の所得向上です。カンボジアでは、農家のコメの販売価格の引き上げがなかなか進んでおらず、農家の所得向上のペースが捗々しくないとの指摘があります。更に、ポストバーベスト、流通、輸送、輸出等の段階での非効率性とコスト高という問題も、併せて取り組む必要があります。
いまだに人口の8割が暮らす農村部の経済の振興は、重要な課題です。ライス・ポリシーは、カンボジア政府が明確に打ち出した政策として評価されており、目標達成に向けた様々な努力が続けられています。コメの輸出を通じた農業振興は、目の付け所が良く、大きな市場を相手にして農村部を振興していくことが可能であろうと思われます。しかし、その一方で、国際市場で勝ち残るための競争力の強化が必要不可欠となります。課題は様々ありますが、カンボジアの農業が「戦略的農業」をキーワードとして、今後とも輸出をテコに発展していくことが大いに期待されています。
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