ホーム 過去のマガジン記事 カンボジア経済: 第32回:カンボジア産業開発政策 労働集約型から技術駆動型へ

カンボジアクロマーマガジン42号

 8月26日、プノンペンの首相官邸(ピースパレス)で、カンボジア産業開発政策(Cambodia Industrial Development Policy 2015-2025)の公式発表式典が開催されました。式典には、フン・セン首相、キエット・チョン副首相、オウン・ポン・モニロット経済財政大臣、ソクチェンダ・ソピア大臣兼カンボジア開発評議会(CDC)事務総長他、カンボジア政府関係者、外交団、民間関係者等、1000名近くが参加しました。
 本稿では、このカンボジア産業開発政策の概要について説明したいと思います。

DSCN8264

カンボジア産業開発政策の発表式典。1000名が参加した。

1. 背景と必要性
 産業開発政策の背景として、(1)カンボジア経済を国際経済、特にアセアン経済共同体に連結する観点からのカンボジアの地理的優位性、(2)開放経済と人口ボーナスを活用して雇用創出と成長促進を達成するカンボジアの産業の潜在的能力、(3)経済の中心として経済成長を加速させる政策手段としての産業の重要な役割、(4)「中進国トラップ」に陥ることなく、生産性を向上させることを目的とする構造改革とガバナンス改革の焦点としての産業の重要性等があげられています。

2. ビジョン
 産業開発政策のビジョンは、2025年までに、カンボジアの産業を労働集約型から技術駆動型に、変革・進化させていくことです。このビジョンを実現させることにより、持続可能で包括的な高度成長、雇用創出、付加価値の向上、所得の向上等を達成することを目的とします。

3. 数値目標
 数値目標としては、GDPに占める第2次産業の比率を2013年の24.1%から2025年までに30%に引き上げる、輸出全体に占める縫製品以外の製品の比率を2013年の1%から2025年までに15%に、同じく農産物加工製品の比率を2013年の7.9%から12%に引き上げる等を掲げています。

4. 戦略枠組
 上記のビジョンと目標を達成するため、4つの戦略が策定されています。(1)大規模産業・市場拡大・技術移転促進に焦点を当てた外国投資の誘致と動員、(2)中小企業の開発と近代化、(3)競争力強化のための規制環境の見直し、(4)インフラ改善等の支援政策の調和等です。
 具体的アプローチとしては、製造業と農産品加工業の開発を促進します。そのために、国際的・地域的生産チェーンへの統合、産業地帯の開発、経済特区の運営手続の効率化、新たな工業団地・産業クラスターの開発等を行います。優先産業としては、(1)高付加価値でクリエーティブ、高競争力の製品を製造する新産業・ベンチャー製造業、(2)中小企業、(3)農産品加工業、(4)サプライチェーンにリンクするサポーティング産業、(5)国際的生産ラインに資する産業等となっています。

5. 具体的政策手段とアクションプラン
 上記の戦略を具体化した政策手段と、責任官庁を明確化したアクションプランが策定されています。(1)外国直接投資の誘致(投資環境整備、経済特区開発、産業地帯の準備)、(2)中小企業の強化と近代化(商業登記促進、インセンティブ供与、正しい記帳と会計の奨励、農産品加工業の促進)、(3)法規制環境の改善(貿易促進と輸出振興、工業基準と知的財産権の強化、納税奨励、労働市場改善)、(4)支援政策の調和(人造りと技能開発、科学技術・イノベーションの促進、産業基盤インフラの改善、金融改善)等についての詳細なアクションプランとなっています。

 なお、2018年までに実行する優先政策として、電気料金の引き下げ、南部回廊等のロジスティクス改善、労働市場の改善、シアヌークビル州の開発の4本柱を示しています。

 今般の産業開発政策には、通常の途上国であればありがちな大規模産業開発(一貫製鉄所や国産自動車産業等)は、含まれておらず、カンボジアの身の丈に合った地道な政策である点が高く評価されます。今後の確実な政策実施とその結果としてのカンボジア経済の順調な発展が大いに期待されます。


鈴木 博(すずき ひろし)

2010年にカンボジア総合研究所を設立。
2007年からカンボジアに住んでいます。
ブログ「カンボジア経済」もご覧ください。
ブログ: http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh

バックナンバー

facebookいいね!ファンリスト

クロマーマガジン

素敵なカンボジアに出会う小旅行へ―The trip to encounters unknown cambodia