カンボジアクロマーマガジン8号
逆境を糧に-内戦時代を生きた成功者たち-
ホー・シアックペン氏
1974年生まれの経営者。内戦期に幼少時代を過ごし、高校を中退した後、プノンペンの商店での下積み時代を経て、シェムリアップに「アンコールマーケット」を開店。圧倒的な手腕で地元の外国人に絶大な支持を受け、同州最大のスーパーマーケットに成長させる。
生い立ちと子供時代の私について
私は74年にカンダール州の農家に生まれ、兄弟は男二人に女二人、私は長男でした。両親は中華系のカンボジア人で、随分と昔に中国からカンボジアに、新天地を求めてやって来た移民だと聞いています。私の家は農家の中でもちょっとした地主で、小作人を雇って胡麻や豆などを栽培していたそうです。子供のころの私は根っからの勉強嫌いで、学校で教えられることが苦痛で仕方がありませんでした。それでいつも遊んでばかりいましたが、友達は非常に多い子供だったと思います。
生まれて間もなくカンボジアは内戦に突入していきますが、戦争の記憶はあまりありません。ただ、近くでベトナム軍による砲撃の音が聞こえ、何回か防空壕に行ったことをなんとなく記憶しています。
80年代半ばに内戦は落ち着きましたが、地方の教育現場はひどいものでした。そんな中、親は私に勉強をさせたかったらしく、私は4年生になった時にプノンペンの親戚の家に預けられて、街の学校に通い始めました。しかし、結局私の勉強嫌いは直らず、最後は高校の卒業試験を受けず、最終学歴は中卒となりました。
下積み時代の私について
暫定国民政府下の92年。勉強を止めた私は、親戚がプノンペンの長屋で経営している商店に住み込みで働き始めました。この親戚にはアメリカに渡り住んでいた親類がおり、その人たちが商品を輸送してくれていたため、商店では海外からの食品や雑貨を扱っていました。当時は物資が圧倒的に足りない世の中だったので、商店は連日盛況でした。私はそこで毎日、日の出から日の入りまで、品だしから会計まで全ての業務をこなしていました。ここでの生活は今考えれば非常に過酷でしたが、若いころの私は自分の手で物を売るのが楽しくて仕方なく、夢中になって取り組んでいました。
独立した時の私について
90年代の終わりに、私はお見合いで建設会社の経理をしていた妻と結婚し、それを契機に自分でスーパー経営したいと考えました。しかし、当時の私はただの雇われの身で、店舗を借りたり、陳列するための商品を揃えるだけの貯金がなく、途方に暮れていました。そんな時に助けてくれたのが、かつての悪友たちでした。皆お金があったわけではなかったので、彼らが名義を貸してくれ、それで何とか最初お店に並べるだけの商品を買うことができたのです。
当時プノンペンにはかなりの数の商店ができていたので、思い切ってシェムリアップに出店することにしました。当時のシェムリアップには3軒スーパーがありましたが、私はプノンペンでの経験を踏まえて、そこでうまくやる自信がありました。
そうして02年に私たちは「アンコールマーケット」を開店しました。当初は長屋2軒を繋げただけの本当に小さな店でしたが、シェムリアップは食のために消費を惜しまない在住外国人たちが多く、また彼らの影響を受けたカンボジア人たちが次第に訪れてくれるようになり、事業は順調に成長しました。09年には1,400㎡新店舗に移転し、さらには18年には国道6号線に面した土地を購入し、シェムリアップ最大の4,000㎡の2号店をオープンしました。
アンコールマーケットが成功した訳
他のスーパーを出し抜いて、なぜ私たちのお店が大きくなったのかよく聞かれるのですが、それは「調査と挑戦」を惜しまなかったことにあると思います。というのも私はカンボジア人なので、外国人が何を欲しているのかよくわかりませんでした。ですが、先ずサプライヤーのリストに載っているものを片っ端から少しずつ注文して売りました。ほとんど売れない商品もあり、大量に廃棄しなければならないこともありましたが、その売れ行きを調べることで、ニーズを理解することができました。また近年は裕福になれたので海外旅行をするようになり、そこで各国のスーパーを視察に行くのはもちろん、食べた各国料理の材料を調べ、それを店頭に並べるようにしました。こうして、他のスーパーにはない商品ラインナップを実現し、ファンを獲得してきたわけです。
私の新しい挑戦について
最近は、郊外に100ヘクタールの土地を購入し、そこでミカンやグァバ、ロンガン、ドリアンなどの果物の栽培を始めました。カンボジア人は果物を好んで食べますが、その多くが海外から入ってくるもので、安全面や品質に不信感を抱いている人が多いのです。自社農園の商品を並べて売れる日が待ち遠しく、畑には毎日通っていますよ。
私が人生から学んだこと
私が大切だと感じたことは、好きなことを見つけ、一度決めたらフラフラしないという事ですね。あとは夢の実現のためにストイックになることです。お金は人生を削って働いた対価だという事を忘れず、目の前の欲求に対して散財せず、真剣に考えて挑戦に投資することが、人生を良い方向に向かわせるカギだと思います。若い者にはもっと苦労して自分を磨いてほしいですね。
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