カンボジアクロマーマガジン6号
「踊るパラソルの下で」 紙本 岩絵の具 116.7cm × 91cm
カンボジアが暑いのは日常ですが、この作品には特に暑い思い出があります。
04年の4月頃のことでした。それまではスケッチに行く時は、ホテルの従業員のスクーターを1日7ドルで借りて使っていましたが、何故かこの年は外国人がバイクを借りて道路を走ることが禁止されていました。99年にカンボジアに来て以来、ずっとスクーターを借りて自由気ままに走り回っていた事がまるで嘘のよう。仕方なくこの日は朝8時にモトドップに頼んで、シェムリアップの6号線沿いにある市場へスケッチへ赴きました。
怒涛のような人の流れの中に私はイーゼルを立て、場所を確保して描き始めました。三日間毎日同じ場所で描いていたので、野菜を売っている人達とすっかり顔なじみになってしまい、ときどき炎天下で汗だくで描いている私を見かねて傘の下に呼んでくれ、水や果物を与えてくれ、つかの間の会話を楽しんでいました。
その時、可愛い小さな女の子がビニールに入った砂糖黍ジュースを持って来てくれた事を思い出します。今では美味しく飲むのですが、この時ほど困った事はありませんでした。当時のカンボジアは今以上に公衆衛生が酷く、水や氷には注意を払わないと大変危険だったのです。私は身を案じて断りたいと強く感じましたが、カンボジアの生活をテーマに描く私は、この子の気持ちに報うべく腹痛を覚悟に飲みました。
そんな40度を超える中、暑さにも負けず描いて日本画にしたのがこの作品。不思議な事にお腹は大丈夫でした。
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