カンボジアクロマーマガジン5号
「洗濯物と自転車」 紙本 岩絵の具 150cm × 150cm
スケッチする場所を探している時、よく洗濯物が目に入ってきます。色とりどりで、生活感というよりも、その風景の大事なアクセントになっているような気がして…。
今私は、随分と昔に、タケオ州のプノン・ダ遺跡をスケッチしに行った時の事を思い出しています。おんぼろのマイクロバスのドアはべこべこに凹み、車内はカンボジア人だけ。なんだか不安だらけでした。
目的地に着いても、プノンペンやシェムリアップのようにツクツクは来ないし、英語もまるで通じない。しばらく途方にくれていたら、ようやく一人のカンボジア人が英語で近づいてきて、なんとか川辺のゲストハウスに辿り着くことができました。
そこで食べた彼らの言う「ロブスター」が新鮮で、美味しかったのを妙にはっきりと覚えています。俗に言う川で獲れる手長海老で、美しい水色の姿をしていました。
さて、小さなボートで川のような運河を約1時間程走り、プノン・ダ遺跡に着いたのですが、私が思い描いていた感じではありませんでした。さっさと宿に戻り、辺りを探索していると、一人の少女に出会いました。そしてスケッチをさせてもらったのですが、その背後にある洗濯物のサンポットに目を奪われ、彼女も素敵でしたが、頭の中は楽しく吊るされている洗濯物を絵にすることばかり考えていました。そしてこれが、その時の記憶を元に描いた作品。少女は自転車になりました。
こうして昔の記憶を辿っていると、時に「優柔不断」が良いインスピレーションに巡り合わせてくれるのだと改めて感じます。
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