カンボジアクロマーマガジン45号
アンコールの聖地をめぐる パワースポット巡礼紀行
生きていると色んなことがある。
うれしいこと、楽しいこと。
辛いこと、泣きたくなること。
小さな幸せを探しながら、日々頑張っている私たち。
でも、時には疲れて、休みたくなる瞬間がある。
そんな時に訪れたい所。
それは、大地の恵みに、 山の壮大さに、聖なる神仏に触れられる場所。
さあ、深呼吸をして出かけよう。神々の宿るパワースポットへ。
心身を癒す、神秘の湧き水を求めて
プノン・クーレン「プレア・アン・チョープ」
太古の昔から、山には神や精霊が宿ると言われて来た。 アンコール王朝の創始者ジャヤバルマン2世は今から約1,200年前、プノン・クーレン(クーレン山)で神王一体の儀式を行い、初代現人神として降臨した。以来現在に至るまで、この山は聖なる山としてカンボジア人の信仰と畏敬を集めている。 プノン・クーレンはアンコール地域を流れる川の水源でもある。人々の生活に欠かせない命の水、それを生み出す母なる霊峰。山の湧き水は清く不思議な力があるとされ、今も多くの参拝者が水を求めて山を登る。 クーレン山麓にある、聖水が湧き出ると有名な寺院「プレア・アン・チョープ」を訪れた。
いざ、聖山へ。
気持ちの良い朝だった。シェムリアップから車で1時間強。砂糖椰子の群生の向こうに、左右に広がる巨大な山が見えてきた。プノン・クーレンである。入場ゲートの分岐点から東に赤土の道を少し走ると、山の麓に到着した。駐車場の向こうに見える石階段。ここが「聖なる水が湧き出る」というプレア・アン・チョープ寺院の入口だ。
ゆっくりとまわりの景色が変わっていく。階段を登ること15分、汗ばんだ体を休めようと長椅子に座っていると、上から女性三人組が降りてきた。聞いてみると、彼女たちは”憧れの寺”に参拝するため、はるばるポーサットからやって来たそうだ。そうこうしているうちに、下からは家族に支えられたか細い老年女性が登ってきた。体調が悪いので、快気祈願のために来たと言う。
仏陀の足元から湧き出る聖水
寺院は山の中腹にある。中央には吹き抜けのお堂があり、むき出しの岩壁に直接描いた仏陀の絵、その足元から透明な水が渦を巻きながら湧き出ている。これがかの聖水だ。平日の午前だというのに、すでに20名を超えるカンボジア人参拝客が来ていた。彼らは仏陀の前にひざまずき、拝み、湧き水に手を浸し口に含んだ。この水は、特に病気や怪我の治癒に効果があるとされ、それを目的にわざわざ遠方から来るカンボジア人も多いという。
お堂の前にはプールがあり、老若男女が気持ちよさそうに入っていた。寺にプールという奇妙な組み合わせだが、聖水を全身に浴びるために作った沐浴場とのこと。何とも大胆な発想に驚く。※
山の神が住まう場所
さらに上へ伸びる道が見えた。「この先に山の神がいるんですよ」寺の住職からそう聞き、登ってみることに。小さな橋を渡り、細い山道を行く。ふと見上げると、せり出した巨大な岩壁の内側に、小さくも、立派な祠が見えた。三体の像が重なるように鎮座している。後ろから仏陀、山の神、そして建立時の王であろう16世紀のアンチャン王。仏陀と王に挟まれた山の神。その佇まいは不思議な力を湛えているようで、この山を守ってくださっているのだなと妙に納得した。
さらに登ると、パーンと一気に視界が開けた。眼下には広大な大地が広がる。果てしなく続く青い空、緑の平原。プノン・ボック、プノン・クロム、プノン・バケンの三聖山。アンコールの王たちもこの風景を目にしたのだろうか。吸い込まれるような景観を前に呆然と立ち尽くした。
気がつけば昼前だった。参拝客たちはお弁当を食べたり木陰で寝そべったり、思い思いに過ごしていた。きれいな空気を吸って、聖水を浴びて日がな一日のんびりする。それだけでも十分パワーチャージできそうだ。
行きは長く重く思えた階段が、ほんの少しラクに感じられた。
※肌を露出した水着での沐浴は不可。女性は必ずサロン(大きい布)着用で利用すること。