ホーム 過去のマガジン記事 カンボジア経済: 18回目:カンボジアの弱点 電力事情

カンボジアクロマーマガジン28号

海外からの投資を誘致するにあたって、インフラの整備状況は投資家が最も心配するポイントのひとつです。カンボジアのインフラについては、道路や港湾等のロジスティクス関係は復興段階が終わり、一息ついたところですが、電力はカンボジアのウィークポイントとなっています。

カンボジアの電力部門は、国営電力公社は送電と配電を担当し、発電は民間企業によるIPP(独立電力事業者)が主に担当しています。

カンボジアではまだ電力需要規模が小さく、2009年でも約300MWしかありません。また、全国を連携する送電線網もなく、プノンペンとその他の都市は まだ結ばれていません。このため、発電所・発電機の規模も小さく、5MW~15MWといった小型のディーゼル発電が主力となっています。水力発電所につい ては、中国と韓国の企業が投資に積極的です。昨年、中国によるカムチャイ水力発電所(193MW)が完成しました。

電力の輸入については、日本やドイツ、アジア開発銀行の支援を受けてベトナムからプノンペンとシアヌークビルへの高圧送電線が建設されています。また、タ イ側からは、シェムリアップとバッタンバンまで送電線が延びています。カンボジアでは電力消費量(約2514GWh)の6割を輸入に頼っています。ベトナム(1155GWh 46%)とタイ(385GWh 15%)からの輸入が主なものです。

この結果として、電力販売価格は、18.7セント/kwhとアジア諸国の中では突出して高くなっています(日本14.55セント、タイ8.91セント、ベトナム5.26セント)。また、電化率(カンボジア20.1%)も、ラオス(54.0%)、バングラデシュ(44.4%)、ネパール(32.4%)等の貧 困国の中でも際立って低いままとなっています。

プノンペンでは最近電力需給が逼迫し、停電が頻発しています。カンボジア電力公社(EDC)では、その要因を、乾季に伴う水力発電所での発電量の低下と、 ベトナム国内の電力逼迫によるベトナムからの電力輸入の低下であるとしています。中国の支援で昨年完成したカムチャイ水力発電所では、乾季には190MW の発電容量の10%ほどしか発電できない状況となっています。ベトナムからは250MWの電力を輸入できることとなっていますが、ベトナム国内の電力需給 悪化で170MWしか輸入できていません。

この状況に根本的に対応するには、大型(500MW以上)の発電所を建設して、一気に電力料金の引き下げと安定供給を図るべきです。このため、Jパワー (旧電源開発)、中国電力、エコ・アセットの3社は、カンボジアでの石炭火力発電所の建設について、プレF/S調査を進めています。今回の調査では、一基 当たり350MWから500MWという大型の発電機を3基から4基まとめて建設するという計画です。場所はシアヌークビル周辺が有力とされています。輸入 石炭を原料とする大型の石炭発電所は、日本が持つ最新の技術を利用すれば、発電コストも安く、環境への負荷も小さくて済みます。

この計画は、実現すれば、電力料金の劇的な低下と、安定的な電力供給を一気に達成可能です。カンボジアの電力セクターを改善し、日本企業等の直接投資を呼び込むという観点からも、大変素晴らしい案件です。調査の完成と、案件の実現が大いに期待されます。

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ベトナムからの輸入電力を受け入れているプノンペン西変電所


鈴木 博(すずき ひろし)

2010年にカンボジア総合研究所を設立。
2007年からカンボジアに住んでいます。
ブログ「カンボジア経済」もご覧ください。
ブログ: http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh

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