カンボジアクロマーマガジン43号
カンボジア経済
第33回:2016年のカンボジアの最低賃金 9.4%増の140ドルへ
鈴木 博(すずき ひろし)
2016年1月1日から適用されるカンボジアの最低賃金は、140ドル/月で決着しました。現在は128ドルで、9.4%の上昇となります。最近の最低賃金の上昇は、2012年61ドルから2013年80ドル(31.1%増)、2014年100ドル(25.0%増)、2015年128ドル(28.0%増)と、急激なものがありましたが、今回は1桁台の上昇に留まりました。
最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表28名が参加する労働諮問委員会で討議されてきました。雇用者側は133ドル、労働者側は160ドル(当初177ドル)を要求していましたが、10月8日の会議で投票が行われ、政府案の135ドル(5.5%増)が多数を得て、労働大臣に答申されました。この結果を受けて、フン・セン首相は、鶴の一声で5ドル増額を加えることを決定し、最終的に140ドルで決着しました。
日本貿易振興機構(JETRO)の2015年10~11月の調査によれば、製造業・作業員の年間実負担額(本給、諸手当、社会保障、残業、賞与などの年間合計。退職金は除く。)は、カンボジア2642ドル(18か国中15位)となっています。これは、中国8702ドル、タイ6337ドル、ベトナム3855ドル、ラオス2380ドル、バングラデシュ1606ドル等の周辺国と比べてみてもいまだに低いレベルにあります。また、周辺国では、ベトナムが既に2016年の最低賃金を12%増とすることを決めています。このように周辺国でも賃金の急速な上昇が見られており、今回の引き上げ後もカンボジアの相対的な低賃金は、当面は引き続き優位性を維持するものと見られます。
内需振興のためにも、最低賃金をある程度引き上げていくことは必要です。しかし、これまでの急激な上昇は外国投資家の懸念となっていました。このため、カンボジア政府では、最低賃金の検討に当って、今年から労働生産性上昇率や物価上昇率等の客観的基準を使用し始めています。
最低賃金について検討する労働諮問委員会では、最低賃金の改訂について、以下の5つの指針を立てています。年1回の定期的改定、段階的・安定的・予測可能性の高い改定、Win-Win交渉戦略、委員会全会一致または投票による最低賃金改定案の決定、社会的・経済的基準の採用です。特に今年からは、社会的・経済的基準を明確に採用することとなりました。基準は、以下の通りです。
1. 社会的基準
(1)労働者及びその家族の必要金額
(2)生活費及び物価上昇
2. 経済的基準
(1)企業、生産性、収益及び支払能力に対する最低賃金の影響
(2)カンボジアの競争力に対する影響
(3)雇用への影響
これまでカンボジアでは、最低賃金の決定が、政治的な要因で左右される場合もありました。また、労働組合からあまりに高い要求額が提示されることもありました。2015年から採用されたように、統計に基づく明確な基準や公式に基づく、雇用者側も労働者側も納得感が高い最低賃金の決定方式が、できるだけ早く確実に定着していくことが期待されます。
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