カンボジアクロマーマガジン38号
カンボジア経済
28回目:カンボジアとアセアン経済共同体
鈴木 博(すずき ひろし)
2015年末の期限が迫る中、アセアン加盟10か国は「アセアン経済共同体」の完成に向けて、様々な交渉や法整備等に追われています。カンボジアは、取り組むべき431の課題のうち、2014年末現在、371課題を完成しています(達成率86.1%)。カンボジアにとってのアセアン経済共同体の意義について考えたいと思います。
【アセアン経済共同体の概要】
アセアン経済共同体については、「ブループリント」(設計図)によって、4つの柱が定められています。
①単一市場と生産基地
物品貿易、サービス貿易、投資、人の移動、優先統合分野、食品・農業・林業等
②競争力ある経済地域
競争政策、消費者保護、知的所有権保護、インフラ開発、税制、電子商取引等
③公平な経済発展
中小企業、ASEAN統合イニシアティブ等
④グローバル経済への統合
対外経済関係、グローバルサプライネットワークへの参加等
この4つの柱のうち、重要となるのが、単一市場と生産基地を実現するための4つの「自由な流れ(フリーフロー)」です。
第一に、物品についてです。アセアン域内での物品貿易自由化に向けて、アセアン物品貿易協定(ATIGA)が締結されており、先行6か国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ブルネイ)は、既に2010年に99.65%の品目を自由化し、関税をゼロとしています。残るCLMV4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)については、自由化を原則2015年中に達成することとなっていますが、7%の品目については、過渡期間を設け、2018年までに関税ゼロを達成することとなっています。カンボジアについては、全9558品目のうち、センシティブ69品目(最高税率5%)、石油類18品目、一般例外83品目以外について、関税をゼロとする予定です。
第二に、サービスの自由化については、アセアンサービス枠組協定(AFAS)が締結されています。第三の投資については、アセアン包括的投資協定(ACIA)が検討されていますが、カンボジアは域内でも最も投資の自由化が進んでいるため、大きな問題にはならないものと見られます。最後に人の移動の自由化については、自然人の移動に関するアセアン協定を交渉中です。カンボジアからは、多くの労働者がタイやマレーシアに出稼ぎに行っていることもあり、重要な項目となります。なお、熟練労働者については、資格の相互認証協定の締結を順次進めており、既に7件 (エンジニア、建築士、会計士、医療従事者、歯科医、看護師、調査専門家)が調印済となっています。
アセアン・東アジア経済研究センター(ERIA)のチーフエコノミストの木村福成慶応大学教授は、アセアン経済共同体の意義を、「単なる関税引き下げによる自由貿易地域作りにとどまらず、物流の円滑化、通関の円滑化、熟練労働者の移動の自由等が相まって、国際間工程分業(フラグメンテーション)による国際的生産ネットワークの確立と効率化が進展することにある。」と指摘されています。アセアン経済共同体の構築によって、日本企業が作り上げてきた国際間での工程分業による生産の最適化が可能となり、コストの削減や生産の円滑化が可能となると期待されます。例えば、カンボジアで低賃金を活用して労働集約的に部品を生産し、これをタイの東部臨海工業地帯の自動車工場に時間通りに納品していくような生産体制が可能になり、更に効率化されていくことが期待されます。
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