カンボジアクロマーマガジン37号
カンボジア経済
27回目:カンボジアの最低賃金大幅上昇 海外からの投資に心配の種
鈴木 博(すずき ひろし)
2014年11月12日に、カンボジア政府は、2015年1月からの最低賃金を128ドル/月(約1万5500円/月)とすると決定しました。2014年の最低賃金は100ドルですので、28%の大幅増となります。最低賃金に法定手当を加えると147ドル~156ドル/月程度となります。
2015年の最低賃金については、労働諮問委員会で検討されてきていました。委員会の構成は、政府から14名、雇用者側7名、労働者側7名の合計28名となっています。これまでの討議で、雇用者側は110ドル、労働者側は140ドルを提示して交渉してきていました。12日の朝の時点では121ドルを軸としていた模様ですが、全会一致とならなかったため、投票となりました。投票では、政府側の改定案の123ドルに16名、雇用者案の110ドルに7名、労働者案の140ドルに2名が投票したため、委員会の答申としては123ドルと決定されました。しかし、その直後に、フン・セン首相と面談したイット・サムヘン労働大臣は政治決定で5ドルを積み増し、最低賃金を128ドルとすると決定しました。
予想を上回る大幅増に、雇用者側は不満を隠しておらず、カンボジア縫製製造業協会(GMAC)は、「このままでは30社から50社の工場が閉鎖に追い込まれ、5万人以上の雇用が失われるだろう。」としています。
日本企業の立場から見ますと、大幅な賃金増加と円安ドル高のダブルパンチとなります。ただ、日本貿易振興機構(JETRO)の2014年10~11月の調査によれば、製造業・作業員の年間実負担額(本給、諸手当、社会保障、残業、賞与などの年間合計。退職金は除く。)は、カンボジア1887ドルとなっています。これは、中国8204ドル、タイ7120ドル、ベトナム2989ドル、ミャンマー2062ドル、ラオス1718ドル、バングラデシュ1580ドル等の周辺国と比べてみてもいまだに低いレベルにあります。これらの周辺国でも賃金の急速な上昇が見られており、今回の引き上げ後もカンボジアの相対的な低賃金は、当面は引き続き優位性を維持するものと見られます。しかし、今回のような急激な動きは、海外投資家にとって心配の種となることが懸念されます。
一方、投資の多くが外国資本で行われ、投資優遇により法人税等も無税となっている企業が多い状況下では、労働者の賃金をある程度引き上げていくことは、内需振興を通じてカンボジア経済にとって好影響を与えるものと考えられます。国内最大の輸出産業である衣料産業が賃上げを行えば、その周辺事業も好影響を受けるとみられます。また、労働者の賃金が引き上げられると、これら労働者のいる地域では、衣料、食品等の売り上げ増や、サービス需要の拡大を通じ、零細・中小企業や商業が波及効果を受けるものとみられ、工場周辺の住民の所得も向上すること期待されます。また今回発表された賃上げの効果は、若い労働者から農村部の家族への仕送りを通じて地方へも波及することが期待されます。
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