カンボジアクロマーマガジン33号
カンボジア経済
23回目:カンボジアの生命線:南部経済回廊
鈴木 博(すずき ひろし)
カンボジアは、ベトナムとタイという日本企業が多数進出し集積を高めている国に挟まれた、地理的には抜群の場所に位置しています。ホーチミンからは230km、バンコクからは640kmしか離れていません。このため、カンボジアの工場はいわゆるサプライチェーンの一環としての役割を果たすことが期待されており、特に、労働集約的部品産業の立地場所として注目を集めています。カンボジアで生産した部品をバンコク周辺やホーチミン周辺の親工場に納品する形や、ベトナムの港湾を利用して日本等に輸出する形が、カンボジアの低賃金と場所の良さを活用する最もオーソドックスな形態と考えられています。
この形態のビジネスを支えているのが、南部経済回廊です。ベトナム(ホーチミン)~カンボジア(プノンペン)~タイ(バンコク)を結び、将来的にはミャンマー(ダウェー)からインド洋にまで繋がるルートです。
プノンペンから国道1号線を経由してベトナム国境のバベットに至るルートは、ベトナムのホーチミンとの連結、サイゴン港やカイメップ・チーバイ港の利用にとって重要な路線となっています。ベトナム国境近くのバベットには複数の経済特区があり、ホーチミンに近いことから日本企業の進出も始まっています。越境交通協定により、一部のバス、トラックは国境を越えてそのまま通行可能となりました。プノンペン~ホーチミン直行のバスは、一日10便程度運行されています。プノンペン経済特区からサイゴン港までコンテナ陸送を利用している企業も出てきています。メコン河を渡るネアックルンでは、日本の支援により橋梁の建設が進められており、2015年に完成の予定です。プノンペン近郊の国道1号線未整備区間についても日本の支援により整備が進められる予定となっています。
更に、プノンペン~ホーチミン市高速道路整備計画が日本政府の協力で検討されています。計画では、プノンペン~ホーチミン市間を、片側2車線の自動車専用高速道路で所要時間2時間程度で結ぶとしています。ルートは数案ありますが、本命は国道1号線にほぼ沿った路線で、途中のメコン河には専用の新橋梁も建設します。総工費は22億ドル(約2240億円)と見込んでいます。財源としては日本政府からの円借款の供与が期待されるとしています。2020年代初頭に第1期(プノンペン~ネアックルン間)の完成を目指し、全線完工は2020年代後半となると見込まれます。
プノンペンから国道5号線または国道6号線を経由して、タイ国境のポイペトに至るルートが、プノンペンとバンコクを結ぶ重要なルートとなっており、タイからの部品・原材料や消費財の輸入、タイへの製品輸出等に利用されています。越境交通協定により、こちらもトラックやバスの直通運転が始まっています。
国道5号線のバッタンバン~シソポン間の拡幅・改善のために、日本政府のODA(円借款)が2013年5月に供与され、今後工事が行われる予定です。また、残るプノンペン~バッタンバン間についても国際協力機構(JICA)が調査を実施中であり、今後の円借款供与が期待されます。
投資誘致の競合国であるミャンマーやバングラデシュと比較した場合、この南部経済回廊のメリットは、カンボジアにとって大変大きなものということができると思います。カンボジアでは、今後ともサプライチェーンを活用する産業の投資が進むものと期待されます。
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