ホーム 過去のマガジン記事 クメールの食: Vol.3 香気あるクメールの米

カンボジアクロマーマガジン44号

 

 チベット高原に降り注いだ雨水が小川となり、幾多の流れが交わり、やがてメコン河となった。河は蛇行しながら褐色の大地を削り、ゆっくりとインドシナ半島を目指す。四千キロの水の旅の始まりだ。大河と思われているメコンもラオス領内では水量も多くない。しかしカンボジアに入るとメコンも河幅を広げ、流れは緩やかになる。葦が茂る岸辺は目に優しく、視線を上げれば見渡すかぎりの水田が広がる。意外なことに河の水量が多くなるのは雨期でなく乾期の始まりの秋で、19世紀の華僑が敷設した水路にメコンの水を引くことでカンボジアの稲作が始まる。

 カンボジアの米は長粒種のインディカ米。その味わいも軽いものから、かすかに香気をまとった種、少しばかり弾力のある米など、日本人の予想をこえる多彩があり、米を食べる楽しさが深まる。この古代から変わらない雨期と乾期の水の動きが育んだクメール米、ていねいな2期作で収穫され、世界的な品評会でも最優秀賞を受賞している。

 抜けるような青空の下、簡素な露台に名も知れぬ蔓植物の煮込みや川魚の素焼きが並ぶメコン流域の街クラチェの屋台。気品あるクメール米にはやはりこうした自然の味わい深い料理が似合う。


園 健

写真家。料理研究家。広告代理店勤務を経て独立。
1994年からベトナム、カンボジアで、旧フランス植民地をテーマにした撮影に取り組み現在に至る。
南国ハーブと魚醤の料理サロン&キッチンスタジオ『アンドシノワーズ』を東京で主宰。
ホームページ: http://indochinoise.com/ http://sonoken.net/

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