ホーム 過去のマガジン記事 クメールの食: Vol.2 黄昏どきの小さな魚市場

カンボジアクロマーマガジン42号

 

 池の畔の市場が賑わうのは朝ではなく夕方。南国の傾いだ陽射しが華僑建築の軒に隠れると、次第に人が集まってくる。街灯のない街が夕闇に覆われるまで、つかの間ひらかれる小さな市。暗くなってしまえばそれでお仕舞い、そんな市場の不揃いな魚のお話です。

 プノンペンや主要な国道は自然堤防に築かれているので普段は気がつかないのだが、カンボジアの南半分は土地の低い氾濫原で、雨期の終わりから乾期にかけて大半が浸水する。朝もやに包まれるなか漁師は浸水林に船を繰りだし、川底に棲むナマズ、中層を泳ぐナマズ、大小の鮒の仲間、ウグイ、ニゴイ、雷魚、熱帯魚、手長エビ、透明な川エビ、淡水ヘビを採りにいく。子供は小さな船で池に漕ぎだし、蓮の葉を摘みにいく。

 夕方、市場ではチャムの女性たちが、その日捕れた魚をアルミ盆にならべている。道に敷かれた蓮の葉の上で小エビや小魚が跳ねている。カンボジアでは魚は炭火で素焼きにし、さや豆を砕いてライムと発酵魚を混ぜた調味料と一緒にいただくのが定番。泥臭さはなく、精緻な白身の味わいだ。日本ではうなぎや鮎くらいしか食べなくなった淡水魚、カンボジアに滞在するならぜひ食べてみたいクメールの味だ。


園 健

写真家。料理研究家。広告代理店勤務を経て独立。
1994年からベトナム、カンボジアで、旧フランス植民地をテーマにした撮影に取り組み現在に至る。
南国ハーブと魚醤の料理サロン&キッチンスタジオ『アンドシノワーズ』を東京で主宰。
ホームページ: http://indochinoise.com/ http://sonoken.net/

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