カンボジアクロマーマガジン27号
プレア・ヴィヘア入門
03 各建物から見るプレア・ヴィヘア -Structure-
各建物の名称については、これまでにも研究者によって様々な呼び方がされてきましたが、ここではフランス人研究者によって記され、その後一般的に使用されている名称を利用して説明を行っていきます。
第五ゴープラ
第五ゴープラはプレア・ヴィヘアの中で最初の入口として設置された十字型平面の建物です。比較的小さな建物ですが、壁体はなく柱と梁のみで出来ている構成はカンボジアではあまり見られないため、プレア・ヴィヘアを象徴する建物となっています。カンボジアのお札(2000リエル)の絵柄にも用いられています。
第四ゴープラ
第五ゴープラと同様の十字型の平面の建物です。ただし、大きさは第五ゴープラよりも一回り大きく、構成も第五ゴープラとは異なり南面は窓のない壁体を有しており、第五ゴープラと比べ閉鎖的な空間となっています。
南側の扉上部のペディメントにはアンコール・ワット等クメール寺院の中でも比較的よく見られるモチーフである乳海撹拌が描かれています。
第三ゴープラおよび“宮殿”
第三ゴープラはプレア・ヴィヘアの中でもっとも大きなゴープラです。またこのゴープラは中心の入口のほかに両側面に入口を有しています。このゴープラの両脇には“宮殿”と呼ばれる建物が接するように配されています。宮殿”と呼ばれる建物は一般的には一の字型の建物とU字型の建物によって構成され、南側に多くの開口部を有し、一対の建物が中心軸を挟むように配されます。類似した形式の建物がその他の一直線上に各遺構が配置されている形式の中~大型クメール寺院にも見ることができます。当初はこのような形式をした建物が王や高官の建物だと考えられていたため“宮殿”と呼ばれていましたが、研究が進むにつれ、当時の王宮が木造で建造されたことが明らかになり、次第に当時の住居が木造であるという考えが主流になっていきます。その後は本形式の建物が宗教的な目的を有していたという推測以上の考察がなされておらず、その用途は謎なまま、現在では“宮殿”という呼び名のみが残されています。ただし、“宮殿”を有するその他の寺院では、“宮殿”の間にゴープラが配されていないため、プレア・ヴィヘアの計画がクメール寺院の計画では特異な計画であることが伺われます。
第一~第二ゴープラ及び付属建物
第二ゴープラ北面
プレア・ヴィヘアの最上層には第一回廊と第二回廊に周回された空間が配されています。ピミアナカスのヴォールト屋根の構造に似た第一回廊は第一ゴープラと疑似ゴープラを有していますが、これらのゴープラとは接しているものの、直接行き来できる構成にはなっていません。北側に位置する第一ゴープラは拝殿状の空間を有しており、Tのような平面構成をしています。拝殿の柱は突出部を有しているため、当時の屋根構造が二層の屋根構造を有していた可能性が伺われます。他方、南側に位置する疑似ゴープラは南側に開口部を有していない特異な構成をした建物となっています。このような構成の建物はベン・メアレア~大プレア・カーン間に配されているプラサート・チュレイ等の宿駅の寺院においても南側に同様のものがみられます。この空間の中心には前室を有した中央祠堂が配置されています。
第一回廊の両脇には田の字型平面をした付属建物が配されています。この建物は一説では聖職者、特に寺院に寄与する女性のための建物であるとも言われています。
そして、第一回廊北側には北面に第二ゴープラを有したU字型の特異な形式の第二回廊が配されています。外側は壁で構成されていますが、内側は壁ではなく列柱が配されています。この回廊と第二ゴープラも第一回廊同様、行き来できない構成になっています。
第二回廊内部
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