カンボジアクロマーマガジン4号
淡水魚はクメールのカルチャーだ
私、カンボジアで
淡水魚図鑑作ってます。
この度、淡水魚の特集をするにあたって、カンボジアで淡水魚研究を行っている佐藤さんに「カンボジアの食用淡水魚図鑑」を監修いただきました。佐藤さんはカンボジアで18年に渡り、田んぼの水路から辺境の山岳地帯まで、国内各所の水辺を巡って調査をされてきました。そんなカンボジアの淡水魚に一番ハマっている日本人に、その魅力について語っていただきましょう!
佐藤 智之
2001年よりカンボジア全土に生息する淡水魚類の分布調査を開始。
2010年からシェムリアップに拠点を移し、魚のフィールド調査と共に魚に関する様々なプロジェクトに参加。
妻、娘、愛犬と暮らす。
佐藤さんはなぜカンボジアで淡水魚の研究をしようと思ったんですか?
私は水産学を学んだ後、琵琶湖博物館という施設で働いていたんです。館内でカンボジアの魚を展示していて、「この魚たち、現地でどんな風に棲んでいるのだろう」という事に興味を持ちました。
それをきっかけに2000年にカンボジアを訪れ、調査をしたんです。でもいざ採集した魚がどんな種類なのかを調べようとしたら、その魚たちの情報が全然無かったんです。最初は途方にくれましたが、次第に「カンボジアの魚についての研究はほとんど進んでいない!これは面白そう!」という思いがこみ上げてきて、腰を据えてやってみることにしたんです。
この研究の目標と目的はなんですか?
生物研究の初歩は、採集を行って分布域や生態などの基礎情報の記録を取ることなんです。なので私の目標は、先ずはカンボジアに広がる水域に、どんな種類の魚がどんな環境で生息しているのか?という情報を収集し、それらの魚の標本や図鑑を作って後世に残すことなんです。それが未来の研究者たちの役に立てたらいいなと思いますね。
私としても、この国の魚は未知な事が多く、フィールドで魚と出会うという事自体が楽しいです。また魚を通じて新発見をした時や、自分の仮説が正しいのかどうかがわかる瞬間にハマっているんです。
今まで食べたカンボジアの淡水魚で、どの魚が一番印象に残っていますか?
一番美味しいと思ったのは次ページからの図鑑でも紹介している「メコンギナ・エリソロスピラ」ですね。でも印象に残ってるのと言われると別です。
もう15年程前ですが、当時まだ未調査だった南西部コッコン州のカルダモン山脈に行った時。バイクに乗ってほとんど人影もない1,800m級の秘境の山中へ分け入ったんです。実はこの道は未舗装で、道行く道は草原や山道ばかり。急斜面や、橋のない川、大きな岩の転がる岩場ではバイクを担いで進まなきゃいけなかったんです。
もうヘトヘト腹ペコになりながらやっとの思いで山頂近くの5軒ほどの集落に辿り着き、その中の一軒に泊めてもらったんですが、何も食べるものがない。それで採集したライギョの仲間を焼いて食べさせてもらったんですが、これの美味いこと!カンボジアの淡水魚を食べて一番幸せを感じた瞬間でしたね。
今までの調査で特に印象に残ったエピソードを教えてください。
フィールドでの調査時は、もちろん自分でも採集するんですが、地方に生息している希少種なんかは、遠征期間だけではそうそう採れないので、地元漁師とのネットワーク構築もしています。漁師さんに採れたら連絡してもらうようにお願いするんですね。
それで7年ぐらい前の事ですが、オオウナギという大型魚を探していて、漁師さんから「採れたぞ!」と連絡をもらったんです。興奮して急いで漁師宅へ向かったのですが、到着して渡されたのはなんと、頭部だけ…。「来るのが遅いから食べちゃった」って。超ガッカリして家に帰った時のことは忘れられないです。
でもこういう調査を通じて、私の思いを理解し協力してくれるカンボジア人の漁師さんらと出会い、そして共に新しい魚に出会う瞬間を共有するということに強いやりがいと喜びを感じています。
クメール人にとって、淡水魚とはどんな存在だと感じていますか?
大河メコンを有するこの地に暮らす彼らにとって、アンコール王朝以前の時代から現在に至るまで、淡水魚は非常に重要なタンパク源で、そしてそれによって文化や歴史が作られてきたんだなと感じます。でも、ヒトというのは身近なものほどその大切さを忘れがちになってしまう生物です。経済発展が急速に進んだ近年のカンボジアでは、フィールドとなる水辺環境がものすごいスピードで悪化してきています。自然界の資源には限りがあり、クメールの人にとって生活の糧や食文化である大切な淡水魚を後世に残すためにも、その環境を見つめて自分たちで守っていく時代に入っている事に気付いてほしいと思います。
これからカンボジアの淡水魚を味わう人に向けてメッセージをください。
太古よりこの地に文明が栄えたのは、豊富な淡水魚があったからといっても過言ではないと思います。そんな魚たちを利用した魚料理が、カンボジアには沢山ありますので、滞在時にはぜひそんな魚料理に挑戦していただきたいと思います。
その時にその魚がどんな姿をしているのか?どんな名前なのか?どんなところに生息しているのか?といった情報を得て、より一層楽しい食事にしていただけると幸いです。
ありがとうございました!
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