カンボジアクロマーマガジンPP15号
カンボジアのモダニズム建築を日本人建築士の視点から紹介する本企画。第4回では、プノンペンのInstitute of Foreign Languages(IFL)に建つ教育研究棟を取り上げます。1960年代半ば、国家の近代化とともに設計されたこの建築には、建築家ヴァン・モリヴァンが追い求めた理想が静かに息づいています。
外観でまず目を引くのは、西側正面にずらりと並ぶ斜めに傾いたコンクリート柱に支えられた建築ボリュームです。まるで動物が前足を揃えて待ち構えているような佇まいは初見でも親しみを覚えます。これらの柱は、建物の重さを支えるだけでなく、風や地震などの横からの力にも柔軟に対応できるよう設計されています。柱を斜めに配置することで、荷重を効率よく地面へ分散させ、構造全体の安定性を高めています。またこの柱列は、単なる構造体にとどまらず、空間にリズムや表情を与える彫刻的な存在でもあります。柱の下にはベンチが設けられ、日陰に涼しい風が通り抜ける憩いの場所にもなっています。
屋根も特徴的で、中央棟と階段教室棟の上部には、断面が六角形の筒を横に並べたデザインが施されています。柔らかな自然光を室内に取り込みながら、強い日差しを遮る工夫がなされており、カンボジアの気候に配慮した実用性と美しさを兼ね備えた空間を実現しています。
傾いた柱と連続する六角筒が織りなす立体的なリズムは、教育の場にふさわしい躍動感を宿し、今もなお訪れる人々に静かで深い印象を残しています。
一級建築士 尾形雄樹
株式会社翔設計 プノンペン支店
社会ニーズの高度化・多様化に対応する建築総合コンサルティング企業です。建築・構造・設備の専門技術を活かし、新築・リノベ・FM・PMCなど多様な段階・手段で建物の課題を包括的に解決。
プノンペンを海外拠点とし、グローバルに事業を展開。
電話:096-431-0207
時間:8:30-17:30
Web: https://www.sho-sekkei.co.jp/
Facebook: Sho-Sekkei PHNOM PENH Branch
- タグ
- JICA
バックナンバー
- 【カンボジア 建築紀行】知っているようで知らないヴァン・モリヴァン 独立記念塔 カンボジアクロマーマガジンPP12号
- 【カンボジア 建築紀行】オリンピック・スタジアム ─ アンコールの記憶をたたえる都市建築 カンボジアクロマーマガジンPP13号
- 【カンボジア 建築紀行】建築に宿る哲学—モリヴァンの自邸から学ぶ空間の豊かさ カンボジアクロマーマガジンPP14号
- 【カンボジア 建築紀行】動きの建築——IFLの斜柱と六角屋根の美学 カンボジアクロマーマガジンPP15号





