ホーム 新マガジン記事 カンボジア建築紀行: 【カンボジア 建築紀行】オリンピック・スタジアム ─ アンコールの記憶をたたえる都市建築

カンボジアクロマーマガジンPP13号

カンボジアに息づくモダニズム建築の魅力を、日本人建築士の視点から紹介する本企画。第2回は、プノンペン中心部に広がる「オリンピック・スタジアム(National Sports Complex)」です。

 

1964年に完成したこのスタジアムは、約7万人収容の屋外競技場を中心に、水泳場や屋内アリーナが一体化した壮大な都市建築。着想源はアンコール・ワット。建物の配置や軸線、上下動線、視線の抜け、空間の展開(シークエンス)に、「連続した断面」の構成原理が応用されています。古代遺跡の空間体験を現代建築に再構成した試みです。

 現地に立つと、スタジアム全体が大地から立ち上がるピラミッドのような丘に見えます。屋内アリーナの背面が屋外スタンドの一部となり、水泳場の屋根が東端に重なる構成により、異なる施設が重層的に機能し、奥行きとスケール感を生んでいます。

 また、敷地を囲む環濠(堀)も建築の一部です。掘削で出た60万㎥の土を造成に活用し、環濠は貯水・排水を担うインフラとして設計されています。自然環境と一体化した計画です。近年、老朽化した座席の一部が2024年に改修され、往時の雰囲気を残しつつ、安全性と快適性が向上。保存と活用の両立を目指す動きも始まっています。

 このスタジアムは今も、「いつかカンボジアでオリンピックが開かれる日」への願いを託された建築です。訪れた際は、アンコール・ワットの空間を思い浮かべながら歩いてみてください。過去と未来が重なる感覚に出会えるかもしれません。

一級建築士 尾形雄樹

株式会社翔設計 プノンペン支店

社会ニーズの高度化・多様化に対応する建築総合コンサルティング企業です。建築・構造・設備の専門技術を活かし、新築・リノベ・FM・PMCなど多様な段階・手段で建物の課題を包括的に解決。
プノンペンを海外拠点とし、グローバルに事業を展開。

電話:096-431-0207

時間:8:30-17:30

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