ホーム 過去のマガジン記事 プノンペンの風景: 第20回:クマオイ物語

カンボジアクロマーマガジン29号

 

「クマオイ」、「熊追い」ではなくクメール語で、幽霊、お化けのこと。先日、知人のカンボジア人が、開発中の土地で寝泊りした際の話。まず、1人がトイレに立ったと思ったら、腰がとても痛くなり数日動けなくなった。医者に行っても何ともない、と言う。もう1人は毎晩背中に激痛と金縛り、別の1人は指を子供がかじるような痛みと黒い影たちを見た。そして、その現場で井戸を掘った業者は、転倒、腕を打撲。

 

‘80年後半にカンボジアへきた人で霊感のある人は、今や立派な某5つ星ホテルに泊まると夜に窓際を兵隊が行進する音を聞いたという。窓際には人が歩けるような所はないのに。同じ頃、地方に行って(許可が必要だった)古ぼけたホテルに宿泊すると誰もが霊を感じて怖くて泣き出した、ともいう。私の場合金縛りは数回、1度だけ黒い人影が寝ている私を見下ろすように立っていた事がある。当時も猫を飼っていたので、2階にあった寝室の庭に面するドアはいつも開けっぱなしだったのではあるが…。(今思えば本物の人だったのかも…。)

 

先の開発地での話は、通常する果物のお供えの供養をしたそうだが効き目なし。年長者が言うには、その昔多くの人たちが住んでは亡くなったので、大人の男女、子供たちが好む物すべてのお供えをしないとだめらしい。鶏肉、ご飯、お酒、果物、お菓子等々取り揃えてみたら、その晩は何もなかったもよう。こういう場合、お坊さんに祈祷をしてもらう人もいる。今生きている者が貴方たちの冥福を祈っているよ、というメッセージが伝わる事が大事なようだ。

 

もちろん統計は取れないが、カンボジアの霊人口は多いように思う。墓場は霊気を感じる場所と言われるが、寺や墓でうろうろとさ迷う幽霊が目に見えるようだ。万が一カンボジアの墓に入ってしまったら、私もクマオイとなって、あの世でもクメール人とクメール語でお付き合いをするのかなあ。楽しいような、くたびれるような…。


いしもと ゆみ

89年に一度カンボジアへ渡航。92年に日本のNGO職員としてプノンペンに赴任以来、援助関連業務に携わるが、04年から企業に勤める。プノンペン生まれの一女一男の母。

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