カンボジアクロマーマガジン42号
クメールロック・ア・ゴーゴー!
第2回 混乱の時代に生まれた名カバー
周防 周大(すおう しゅうだい)
60-70年代のミュージシャンを中心に、イカしたクメールロックを紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、内戦中にフランスへ逃れ、今も週末のパリでステージに立つ伝説のシンガー、So Savoeun(ソー・サブン)だ。ポルポトが去って7年、そしてUNTACが来る5年前にあたる86年。オリンピックスタジアムで、おそらく内戦後初の音楽祭が催されていた。彼女はフランスからこれに参加し、『Kanha 80 kilo』(80kgの女の子)という曲を歌っている。
『80kgの女の子』は、クメールロック御三家のひとりPanRon(パン・ロン)が72年に発表したチャチャチャ・ナンバーだ。体重80kgの女の子があの手この手で「私を愛して!」と訴える歌詞を、淡々とした短調に乗せるギャップが鮮やかで、「本人からすれば悲劇、まわりから見れば喜劇」とでもいえる趣がある。この86年ライブ版では、ソー・サブンとバックバンドが、圧巻の80年代テイストで曲を換骨奪胎! 無駄のないベースラインの上に、コーラスの効いたリズムギターが漂い、ラテンパーカッションすらもクールな印象に変身。60-70年代クメールロックの荒削りなパッションを、客観的に再構築するような演奏が繰り広げられている。
75年にポルポトがプノンペンを陥落して、ミュージシャンはほぼ皆殺しにされたカンボジア。10年以上も世界の音楽トレンドから取り残されたこの国にも、確かに80年代の音はあった!往年のクメールロッカーたちが生きていたら、こんな音であふれていたんだろうかと、思いを馳せずにはいられない。
“So Savoeun”『 Live from Olympic Stadium in 1986』https://www.youtube.com/watch?v=M7WnoP6hlYE
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- PanRon, So Savoeun, オリンピックスタジアム, クメールロック
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