ホーム 過去のマガジン記事 プノンペンの風景: 第17回:なけなしのホゥプ

カンボジアクロマーマガジン26号

 

その子供みたいな男の人は、ホゥプという。大きな畑の地主の弟だ。
初めて会ったのは、その大きな畑の一角で飼っているサルたちと戯れている時だった。鎖につながっているとはいえ、飛び回るサルたちを怖がる息子に「大丈夫、大丈夫」とまるでサルが友達のように操っていた。よく見ると顔もどこかしら似てしまっている。その後、その畑に出向いても姿を見かけない。どうも、田舎に戻ってしまったようだった。

 

次に会ったのは、半年もたった頃、いた、いた。あの子供の様にあどけないホゥプ。背は低いが、きっといい大人なんだろう。思い切って歳を聞いてみたら、32歳。

 

地主が車で私たちをあちこち観光に連れていってくれることになった。出発前のトイレから戻ると、しょぼくれながらも地主に何かを訴えている。「お前も行くのか?行きたいのか?」「うん、うん。」とうなずくホゥプ。地主は、仕方なく折れ、みんなで車に乗り込んだ。ホゥプは一番後ろの席に着く。
道中で、ホゥプが電話を始めた。「ハロー、ハロー、水3ケースが必要なのか。そうか、わかった。後で持って行くから。」 なんと兄貴のもう一つの商売である水売りを手伝っているではないか。たいしたもんだ、と感心していると、息子が、「お母さん、携帯電話のバッテリーで話をしているよ。」と耳打ちする。もちろん、息子はダウン症という名前の病気など知らない。

 

山に着くと、今度はその黒く薄べったいバッテリーを、山から見下ろせるきれいな景色に向けて、シャッターを何度も押す。「お母さん、今度はカメラになってる・・・。」 きっと、きれいな写真が撮れただろう。
本物のカメラを見ると、撮って、撮って、とポーズをつくる。ニコニコ笑って、べたべた体をくっつけてくる。息子たちは少し困ったような顔をして写真に納まる。
おそらく学校へは行けていないホゥプ。簡単な手伝いはできるのだろうけれど、きっと家族のお荷物となっているはずである。それでも、皆の中に混じって生きている。

 

やらせてみると、ホゥプはマッサージが上手だ。家計を助けるほどの腕にしてあげたいなあ、と小さな計画が生まれてくる。またひとつ楽しみが増えた。


いしもと ゆみ

89年に一度カンボジアへ渡航。92年に日本のNGO職員としてプノンペンに赴任以来、援助関連業務に携わるが、04年から企業に勤める。プノンペン生まれの一女一男の母。

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