カンボジアクロマーマガジン41号
地味だけど、実はすごい!ちょっぴりニッチな遺跡探訪
カンボジア各地に無数にあるアンコール遺跡。歴代の王のためにクメール人が築いた煌びやかな寺院は、いまや多くの観光客が訪れる世界有数の観光地となった。遺跡内にある絵巻物のような壁画や、細やかな細工が施された美しい彫像には誰もが魅了される。 今回は有名どころの素晴らしい壁画や彫像におされて、普段あまり日の目を浴びない、地味だけど実はすごい!そんなニッチな遺跡の見どころを小ネタと共に紹介する。
アンコール・ワット : レア度 ★★
仏教改宗後に作られた貴重な彫像
カンボジアを代表する遺跡アンコール・ワット。寺院の完璧なまでに美しいフォルムと第一回廊の長編壁画は見るものを圧倒させる。しかし、第三回廊にひっそりと佇むこの彫像も実は貴重なものである。仏教の教えを元に作られたこの彫像は、各地で同様のモチーフのものが量産されたが、内戦によって破壊され、残された多くは博物館に貯蔵されている。そのため、製作当時のままの姿で遺跡内に残っているのは珍しい。
瞑想するブッダからは、まさに悟りを開こうとしている穏やかな息遣いが感じられ、それを守るムチャリンダ蛇王も一つの頭が欠けてしまっているが、比較的綺麗な状態で残っている。
ブッダを守るムチャリンダ蛇王の説話 ある日、ブッダはムチャリンダ蛇王が住む菩提樹の下で深く瞑想していました。すると大きな嵐がやってきましたが、深く瞑想するブッダはそれに気付きません。これは大変だと思ったムチャリンダ蛇王は仏陀の体に7回とぐろをぐるりと巻き付け、7つの頭で傘を作り、7日間仏陀を風雨から守りました。その後、無事に悟りを開いたブッダはお礼としてムチャリンダ蛇王を帰依させました。
バイヨン寺院:レア度 ★★★
当時の遺跡建設の様子を描いた壁画
バイヨン寺院の第一回廊の壁画は戦いの場面や日常風景など、当時の人々の生活が生き生きと描かれているのが特徴だ。その中でも珍しいのがこの彫刻である。男たちが、4人がかりで四角い石を持ち上げようとしている。1人の男は上を見上げて石の横に棒を持ち、てこの原理で上に引き上げようとする仲間に指示しているように見える。細やかな表情こそ読み取れないが、このような作業の積み重ねで、アンコール遺跡群にある数々の寺院が建てられたのだろうと推測させる、ロマン溢れる壁画である。
石材運搬の仕組み バイヨン寺院は石材を用いて建設されていますが、60km以上離れたクーレン山麓から切り出し、運搬したと推測されています。しかし、そんな長い距離を人が担いで運ぶのは不可能なため、一説では象を用いたり、雨期の大水を利用し、運河を通じて石材を運搬したと言われています。そこからは人の手でてこの原理を用いて持ちあげられ、彫刻や飾り付けなどの長い行程を経て、美しい寺院が完成したとされています。
バンテアイクデイ:レア度 ★★
犬猿の仲のナーガとガルーダの欄干
壁画では、戦っている様子を描かれることが多いガルーダとナーガだが、この欄干では共に寺院を守護している。ところどころ欠けた部分もあるが、ガルーダの羽根の一本一本まで深く彫りこまれており、牙をむいたナーガにしっかりとまたがるガルーダの臨場感あふれる姿にも注目したい。
また、バンテアイクデイは日本の上智大学調査団が1989年より発掘調査し、人材養成を企図した調査発掘研修の中で、2001年以降多くの仏像を発見したことでも有名である。
ガルーダとナーガの因縁 ガルーダとナーガの母親は同じ神を夫としていました。そのため彼女たちは嫉妬により互いをよく思っておらず、その子どもも自然と憎み合うようになりました。一説によると、ガルーダはヒンドゥー教、ナーガは仏教を表していると言われており、犬猿の仲のふたりが彫られた欄干は二つの宗教が対抗しあうことなく、混じり合う国になるようにとの願いが込められているのではないかと言われています。
ベンメリア:レア度:★
細やかな彫刻が美しいナーガ
某アニメ映画のモデルになったとも言われる苔むした寺院は、それだけで非常に趣があるが、東のひっそりとした場所に、一体のナーガの彫像が発見当時のままの状態で置かれている。
この彫像は、顔周りの彫刻も非常に細かく刻まれており、最も崩れやすいとされる歯まで綺麗に残っている。迫力のある猛々しいナーガは一見の価値あり。
ナーガの不思議 遺跡内の欄干や、様々な神話の中でも度々登場するナーガ。瞑想中の仏陀の傘になったり、乳海攪拌で綱になったりと大忙しの神様に思えますが、これは全て一匹のナーガの活躍ではありません。実はナーガには108匹の兄弟がいて、それぞれ別々のナーガとされており、ナーガ一族を総称してナーガと呼ばれています。また、カンボジアでは、ヘビが脱皮をする様から「不死の神様」として人気があります。
バイヨン寺院:レア度:★★★
勇敢に戦う悲劇の王
バイヨン寺院の見どころと言えば、第一回廊の細やかに施された壁画、そして中央塔にある四面菩薩であろう。しかし、見逃しがちな第二回廊にこの壁画はある。寺院の正面から第一回廊を抜け段を上ると、右手に大きな蛇に絡みつかれながらも闘う、凛々しいライ王の姿が見られる。高さ1mほどあるレリーフは臨場感に溢れ、歯をむいた蛇はまさに王に飛びかからんとしている。また、ライ王はこの蛇を殺したためにハンセン病となったと言われている。
ライ王の伝説 ライ王のテラスに置かれるレプリカのライ王(本物はプノンペン国立博物館貯蔵)。三島由紀夫の戯曲の題材となったことでも有名です。神話では、ライ王はナーガの娘を妻に迎えますが、権力を持つナーガを疎ましくなり、森の中でナーガを殺してしまいます。その返り血を浴びた王はハンセン病にかかり、ライ(ハンセン)王と呼ばれることになりました。壁画ではナーガは蛇の姿として描かれています。
目指せ個性派!?
珍しいデバター図鑑
遺跡のいたるところに彫られ、石造りの壁に花を添えるデバター。そんな彼女たちは意外に自由奔放?ここでは「美女がそんなことしちゃっていいの?」と言いたくなるような珍しいデバター達を一挙ご紹介。