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カンボジアクロマーマガジン40号

カンボジアシルク 時を越えて受け継がれる伝統

[取材・文・撮影] 多賀 史文 [撮影] 岡 克哉 [制作] 田中 友貴(クロマーマガジン編集部)

甦るカンボジアの誇り

その後内戦が収束すると、カンボジアシルクの復興を目指す取り組みが国内各所で開始された。防染※4技術を用いた絣の腰布「ホール」、宗教的な絵絣の「ピダン」、不思議な光沢感のある「パムアン」、そして金糸銀糸で豪華な紋織りを施した「チョラバップ」。これら現代に目にすることが出来る絹布の数々は、国内外に離散した資料や、僅かに生き延びた手の記憶の中から甦ったものだ。そしてこの復興は、戦後20年に渡る活動家たちの筆舌に尽くしがたい努力の上に成立したものである。

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括りの作業にはバナナの幹を薄く剥いで作った紐を用いる。
この紐は柔靭で熱に強いため、染色の滲みなどが少なく美しい模様に染まる

 中でも京都手描き友禅職人で、カンボジアシルク研究の先駆者である森本喜久男氏の功績は大きく、国際的な評価も高い。氏は90年代半ばより地雷の埋設された農村部を奔走して、シルク生産の調査を実施。内戦を生き抜いた数少ない職人を集め、彼らの代で途絶えていた織物の技術を若い女性たちに継承した。さらに氏はかつて営まれていた「伝統」の真の姿を取り戻すべく、彼らがかつて暮らしていた村の環境までを現代に復元したのである。

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伝統的な養蚕ではカイコが自然な環境で繭を作れるように、まぶし(カイコが糸を吐く部屋)には束ねた木の枝を用いる

 近年は織物の質や職人の数も回復しつつあり、カンボジアシルクは再び世界の注目を浴びるようになった。今日では自国を誇る伝統工芸として、技術継承が進められている。

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糸引きの作業は生糸の個性を大きく左右する。機械で引いた生糸は単一で滑らかな布に仕上がり、手で引いた生糸はざっくりとした温もりのある布に仕上がる

※4 糸で括ったり糊や蠟を付着させ、染液が染み込むのを防ぎながら柄を作る染色方法

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