カンボジアクロマーマガジン29号
カンボジアの消防と救急
急速な経済発展途上のカンボジア。その発展に不可欠な消防・救急という危機管理インフラについて、首都プノンペンを中心にご紹介します。どうしても日本と比較してしまうので、つい負のイメージを述べる部分も多いのですが、これらもカンボジアの魅力の一つと捉えて頂ければ幸いです。
カンボジアの消防と救急は大丈夫?
近年、カンボジアでは、急速な経済発展に伴い、火災や交通事故等の各種災害が多発しています。経済発展の速度に対して、災害に対応するためのインフラ整備が追いついていないのが現状です。
新聞報道によれば、2011年中に発生した火災は450件で15人の死者が発生しています。紙くずが燃えたような小さな火災も火災件数に含める日本とは異なり、カンボジアの火災件数は大規模火災を意味しているらしく、この経済損失は計り知れません。
また、救急事象の主な要因となっている交通事故は、「Cambodia Road Crash and Victim Information System Annual Report 2010」(RCVIS,2010)によると、18,287人の死傷者が発生し、うち1,816人が死亡、2億7,900万ドルの経済損失であり、日本の死亡率と比較すると10万人あたりの死亡率は日本の約3.34倍です。
このような中で、消防や救急に対しては各国政府やNGO等による多方面からの支援がなされており、車両や資器材などの物的資源が充実しつつありますが組織体制や人的資源などはまだまだ発展途上の段階です。
日本は119番。カンボジアは?
カンボジアでは、救急車は保健省所管で日本と同じ119番、消防は内務省所管で警察と同じ117番または118番です。消防の場合、プノンペン市には666番もありますが、消防署長が常に持っている携帯電話につながるそうです。
救急の119番指令室はカルメット病院内にあり、24時間態勢で職員が対応しています。
救急は、飲酒による夜の交通事故の通報が多いのですが、一日数百件の通報のうち、最も多いのがイタズラ電話。通報者の通話料が無料だからかもしれません。
通報するにはクメール語が必須なので、もしもの時は近くのカンボジア人の方に助けを求めましょう。お願いしていなくても助け合うのがカンボジアのステキなところ。
火事はどうやって消すの?
日本の基本的な火災対応は、消防車が消火栓から水を得て、建物近くに到着した別の消防車に送水し、その車両から放水するという隊形をとります。
しかし、首都プノンペンでさえも消火栓が84箇所しかなく、保有するホースも少ないため、水槽付きの消防車と10t水槽車をペアで出場させて対応します。
通常、1分間に約500Lの放水量で、単純計算で10tあれば20分放水できるのですが、常に水槽を満タンにしている訳ではありません。数分で水がなくなってしまい、消防車が突然、火災現場からいなくなるということがよくあります。火災現場と消火栓を何度も往復しているのです。
消火の方法も異なります。日本では防火衣や空気呼吸器など、完全防備で燃えている建物の中へ入り、逃げ遅れた方を検索しながら、火元に水を直接かけて消火します。しかし、カンボジアの場合は、建物から少し離れたところから、建物に水をかけるという非効率的な方法です。
カンボジアの経済発展に伴い、高層ビルや不特定多数の方が集まる建物が急速に増加しており、多様化・複雑化する火災への迅速な対応が必要です。しかし、現在のカンボジアの消防力では、火災に十分対応できるとは言い難く、これが精一杯。でも頑張っています。
そのため、プノンペンでは、市消防局、空港消防、軍などが少しずつチカラを合わせて「All Cambodia」で火災に立ち向かっているのです。