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カンボジアクロマーマガジン26号

カンボジアの淡水魚

[文・写真] 佐藤 智之

アンコール時代から引き継がれる人と魚の付き合い

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バイヨン寺院の壁画(一部画像加工)

 かつて栄えたアンコール王朝は皆様もよくご存知だと思います。このアンコール王朝が長い間繁栄した理由の一つがこれまで紹介したインドシナの大地そのものだと思います。歴代の王様たちの力量は勿論のことですが、多くの寺院の近くには大河メコンを始め、広大な大地とトンレサップ湖が眼下に広がり、そこで人々は豊富な資源の恵みを受け続ける事ができたのではないでしょうか。
 バイヨン寺院には民が投網を打つ姿の壁画が見られ、アンコールワット寺院の壁画にも現存する魚たちが鮮明に彫られています。当時のクメール人たちも魚を採り、それを食していたことが想像できます。現在のカンボジアの海岸線は400km程と狭く、海岸付近と首都以外の地域は今でも海水魚を食する機会が少なく、カンボジアの人々が年間に摂取する動物性たんぱく質の約70%が淡水魚といわれますが、メコンや大湖の流域に暮らす人々はそれよりもさらに高い数値を示します。これほど淡水魚の供給量を維持し、食する水域は世界中を探してもなかなかありません。しかし、こうした何気ない文化も徐々に変わりつつあります。自然は一度壊れると元に戻すためには相当な努力が必要です。取り返しがつかない状況になる前に様々な角度からの対策が迫られる時期に入っているのではないでしょうか。その結果次第では魚との付き合い方も大きく変わってしまうかもしれません。

カンボジアの淡水魚

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カンボジアの魚たち

  地球上には約1万3,000種類以上の淡水魚がいる事をご存知でしょうか? その中でもアマゾンに次いで種の多様性の豊かな地域がメコン河水系だといわれ、1,200種(Rainboth 1996)から1,500種(MRC 2004)もの淡水魚が生息しているとされます。そのメコン河水系の一部であるトンレサップ湖にはその中の約100種が確認されています。日本にも湖はたくさんありますが、ひとつの湖にこれだけの種類が生息している湖はありません。(参考:世界でも古代湖の一つとして知られ、固有種が数多く生息する琵琶湖ですら在来魚は約60種程です)
またカンボジア全土ではどのくらいの種類が生息しているのでしょうか?これまでにも幾つかの研究チームがまとめた文献がありますが、その多くは全域調査をしていない事や、近年の研究で新たに見つかった種や分けられた種などもいるため、実はその答えを知る人はまだいません。現段階では477種(Eric Baran 2005)という報告があります。私の調査ではこれまでに約370種を確認していますので、それ以上いることは確かです。魚の調査はとても地味な研究ですが、今後もひとつひとつ情報を集めることで徐々にその実態が明らかになっていくでしょう。

絶滅の危機に瀕する魚たち

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 カンボジアに生息する淡水魚の中にはIUCN(国際自然保護連合)が定めるレッドリストの最高位(絶滅危惧種)にランクされている魚がいます。世界最大のナマズともいわれるメコンオオナマズや観賞魚として最も高価なアジアアロワナなどです。カンボジアにはまだまだ自然豊かな大地が残されていますが、経済発展と共にこれまでになかった化学物質や生活用品の普及、ゴミの増加など大地と共に水辺も変化し始めています。政府機関を始め、カンボジアに暮らす私たち一人ひとりが環境に対する意識を高めていかないと大地は荒れ、水辺は汚れ、豊富な魚が減り、最後は私たち人間の生活に大きな影響を与えることになるでしょう。
 私は12年間行っている魚類分布調査と共に今できる研究はないかと模索した結果、IUCNが定めるレッドリストにおいてCR(Critically Endangered)にランクされているタイガーフィッシュ(学名:Datnioides pulcher)の実態調査と繁殖のプロジェクトを立ち上げました。この魚は生息環境の悪化と共に観賞魚としての捕獲圧が年々高まっている種です。本種の生息状況を記す文献はまだ見当たらず、実態はベールに包まれています。また、繁殖も未だ成功例がなく、これから本種を維持するためには欠かせない手段の一つだと考えています。
 そこで『Save The Datnioides』というタイトルのTシャツを作製し販売を開始いたしました。どうぞ応援よろしくお願いいたします。魚の生活環境を取り戻すことはとても難しい事ですが、今できる事をコツコツと積み重ねる事で、その結果がこれからのカンボジアの未来に少しでもつながれば幸いです。

 

佐藤 智之(さとう ともゆき)
1976年神奈川県生まれ。カンボジアの淡水魚分布調査を中心に様々な研究を行っています。

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