医療と病気
長期渡航にあたって気になるのが、現地でかかりやすい病気とその対処法。正しい知識を身につけておくことで、ある程度予防できる感染症も少なくない。
Contents
- 医療事情
- 注意したい病気
- 予防接種・ワクチン
- 歯科治療
医療事情
カンボジアでの医療機関の設備はまだまだこれから。邦人であれば、外国人向けの病院へかかることをお勧めする。外国人医師が常駐し、日本語通訳サービスを設けている病院もある。しかし、医療費は高額な場合が多く、特に重度な症状や手術が必要となると、近隣諸国のタイ・バンコクやシンガポールなどへ輸送されることもある為、必ず海外旅行保険には加入しておきたい。
注意したい病気
カンボジアは北緯12度付近に位置し、気候区分では全土が熱帯に分類される。そのため他の赤道付近の国々と同じく熱帯特有の感染症があること、及びその症状と予防方法について知っておくと万全である。感染の原因となる病原体は主に細菌、ウイルス、寄生虫の3種類があげられる。とりわけ注意したい病気は以下の通り。
細菌性腸炎(食中毒)
旅行者下痢症(TD)という名称で有名な病気だが、長期滞在者にも容易に感染する。潜伏期間は6~48時間以内。下痢、腹痛、嘔吐、発熱などを主な症状とし、通常は数日以内に下痢は止まるが、それ以上継続する場合はアメーバや寄生虫の可能性を疑ったほうが良い。下痢止めの服用は逆効果なケースがある。
予防&治療法
腸チフス
細菌性腸炎に含まれるが、症状は緩やかな発熱から始まった後に下痢へと経過する。病原体はサルモネラ菌の一種のチフス菌で、汚染された食物や水などを介して経口感染する。下痢が始まる段階では、発熱が40度近くに上昇し、それが7日以上継続するため意識障害を引き起こしやすい。重症化するにつれ激しい腹痛、頭痛、関節痛等を伴う。場合によっては抗生物質に対して耐性を示すため、的確な薬剤の投与が必要。
予防&治療法
破傷風
病原体は地中に住む細菌であり、怪我をして傷口が汚染土壌に触れた際、体内に入り込む。傷は肉眼で確認できない小さなものでも感染する。カンボジア都市部でも珍しい病気ではなく、発症後の死亡率は50%。初期症状は歩行障害と舌のもつれから始まり、悪化すると全身の筋肉が発作を起こす。
予防&治療法
つつが虫病
カンボジアを含む東南アジア全域で見られる。つつが虫と呼ばれるダニが媒介する細菌が病原体となり、草むらなどでダニに刺されると発症。潜伏期間は1~2週間程度で、刺し傷に生成されるかさぶた、全身に現れる発疹、リンパ腺の腫れ、それに40度程度の高熱が主な特徴。治療が遅れると重症となり、死亡することもある。
予防&治療法
型肝炎・E型肝炎
汚染された食物や水などを介して経口感染するウイルス性肝炎。都市部や農村を問わず国内どこでも発症しうる病気。風邪のような症状から始まった後、全身倦怠、食欲不振、黄疸などが徐々に現れ、妊婦、高齢者では重症化するケースがある。急性肝炎を発症してしまうと手遅れなので、早めに医師の診察を受けること。
予防&治療法
B型肝炎・C型肝炎
おもに血液や体液から感染するウイルス性肝炎で、性交渉、注射針の使い回し、輸血などによって感染する。時に急性肝炎を発症する原因となるが、無症状の経過を辿るケースも多い(キャリアと呼ばれる)。ウイルスが増殖を続けると症状が慢性化し、肝硬変への移行リスクと肝ガン発症率が共に上がる。
予防&治療法
AIDS(後天性免疫不全症候群)
カンボジアでは急速に広がっており、政府が撲滅に力を入れているウイルス感染症の一つ。HIV (ヒト免疫不全ウイルス)に感染し、免疫細胞が破壊されることで起こる。精液や血液、母乳などの体液を介するため、性交渉や輸血による感染、及び母子感染が多い。カンボジア人口の4~5%が感染者と考えられており、性風俗関連の女性の陽性率は50%以上にも昇る。
予防&治療法
狂犬病
死亡率がほぼ100%といわれる危険なウイルス感染症で、カンボジアでも発症例がある。特に、カンボジアでは、ワクチンを受けていない上、放し飼いにされた番犬が非常に多い。 多くは犬による咬傷ではあるが、実際には哺乳類全てに感染するため、他の動物に噛まれた場合も危険。噛まれた部位によって潜伏期間は異なり、頭部から遠いほど発症が遅れるため曝露後ワクチンの効果が高い。
予防&治療法
デング熱
ネッタイシマ蚊に刺されて感染するウイルス感染症。雨季に多いが、一年を通じて感染する。カンボジア国内においては海岸沿いでの感染が多い傾向にある。潜伏期間は2~7日程度と短く、40度近い高熱と腰部を中心とした激しい筋肉痛、全身の関節痛が顕著。回復時には発疹も伴う。通常は1週間程度で回復する。
予防&治療法
日本脳炎
ウイルス感染によって発症する脳炎。媒体はアカイエ蚊が主だが、熱帯に属するカンボジアでは他の蚊からも感染することがある。1~2週間の潜伏期間の後38度以上の高熱と頭痛が数日間続き、神経系障害、筋肉硬直などが見られる。脳細胞が破壊されるため、回復後は重度の精神障害や身体障害を残すケースが多い。
予防&治療法
アメーバ赤痢
アメーバ赤痢原虫が、食物をや水を介して経口感染することで引き起こされる。下痢、腹痛、嘔吐、発熱などを主な症状。一般的には原虫が腸内から排出されることで治るが、症状が長期化することもある。下痢が2週間以上継続し、血液や粘液が混じる場合は罹患している可能性が高いので、すぐ医師の診察を受けること。
予防&治療法
マラリア
ハマダラ蚊を媒体とするマラリア原虫によって引き起こされる感染症。カンボジア山岳地帯などでは未だ流行が見られる。40度前後の高熱と強烈な悪寒が特徴で、カンボジアに多い熱帯性のものは周期がなく継続的に悪化し、処置が遅れると死亡する。早期に的確な判断、治療を受けることが重要。
予防&治療法
コレラ
細菌であるコレラ菌が経口感染することで引き起こされる。カンボジアでは地方を中心に小規模な発生を散発的に繰り返しており、子どもへの感染が後を絶たない。潜伏期間は数時間程度から長くても5日。激しい下痢と体温の急低下が起こり、治療を怠ると極度の脱水症状によって死に至る。一日に10リットルもの下痢に見舞われるケースもあり、血液減少からショックに陥ることがある。
予防&治療法
日射病並びに熱中症
顔が赤くなり心拍数が上がる、高温にも関わらず皮膚が乾燥して汗が止まる、目まい、頭痛あるいは吐き気などの症状が出た場合、日射病か熱中症の可能性を疑ったほうが良い。カンボジアは年間を通じて日射量が大きく、晴天時に長時間外出する場合などは日射病に注意が必要。熱中症は同様の症状を呈するが直射日光と関係なく、高温な環境であれば室内でも発症する。
予防&治療法
大気汚染を原因とする病気
喘息などのアレルギー疾患、ものもらいや結膜炎、中耳炎、鼻炎など。カンボジアでは乾季をピークに塵や砂埃が多く発生し、その飛散量は日本国内の比ではない。大気汚染物質は日中排気ガスの他、夜間は自家発電機が発生源となり、砂埃を通じて体内に取り込まれることで上記の症状を引き起こす。
予防&治療法
予防接種・ワクチン
カンボジア入国にあたり、予防接種は義務ではないが、事前に防げる病気や感染症には気を配りたいところ。中には、ワクチンを取り寄せなければならない場合や、数回接種するものなど、長期間を要するケースもあり、計画的に行動したい。 日本国内で予防接種を行うのであれば、各都道府県の保健センター等へ問い合わせてみよう。また、事前の予防接種が間に合わなかった場合はカンボジアでも受けられるものもあるので、病院に問い合わせると良い。
歯科治療
カンボジアでは数多くの歯科医院を見かけるが、日本水準と比較すると、適切な治療を行う医院は非常に少ないのが現状である。
歯科治療は海外旅行保険が適用外となり、日本語での治療や日本と同じ水準で治療ができる歯科医院は限られている。 カンボジアへの赴任や滞在が決まった際は、虫歯など早期発見が可能なものは、定期健診や早目に治療を開始するなど、渡航前に完治させておきたい。
もちろん、カンボジア滞在中に痛みや不具合が生じたら、無理せずに歯科医院へ行くこと。ローカル向け歯科医院の治療費は安いが、医療機器が旧式だったり、すぐに抜歯を勧めるなど、衛生面、技術面を考えるとお勧めはできない。費用は高くなるかもしれないが、外国人向けの歯科医院で、医療機器や設備が整っており、医師の技術レベルが高いと思われる医院を選びたい。