カンボジアクロマーマガジン28号
毎年多くの旅行者がこの国へ、荘厳で美しい遺跡を観るために訪れる。遺跡の中には経蔵も残り、数世紀も前から読書を楽しむクメール人の聡明さが見てとれる。この国の歴史を振り返ると、1863年から90年間に渡るフランス植民地支配時代では、この間初等教育がほとんどなされていなかった。その結果、植民地支配終了時の女子の識字率はわずか10%だった。独立後、シハヌーク王の統治下では書籍の制作を開始し、国家財政のうち2割の予算を教育にあてた。
しかしその後のポルポト時代では粛清の名の下、教師や芸術家は虐殺され、書籍は焼かれた。その結果、プノンペンの国立図書館に残った書籍はわずか300冊のみであった。内戦終了後の2002年、公立学校の学費無償化が開始され、1993年に35%だった成人識字率は、4年後には78%にまで上った。(※) だが教科書以外の書物は、戦後に寄贈された書籍が外国語で高価なこと、カンボジア語での出版が困難なことなどを理由に、依然として市民に浸透していない。
シェムリアップ川のほとり、ワット・ダムナック寺院内に事務所を設けるセンター・フォー・クメール・スタディーズ (CKS) は、「カンボジアに関する公共のサービスや芸術、人文学についての研究と教育を支える」ことを目的としたアメリカのNGOである。初代理事長がカンボジアを訪れ、この国の教育の必要性を感じたことをきっかけに、1999年大学や各団体、学者や個人などが共同で国際NGO「CKS」を設立した。設立から14年の今、カンボジア外務省に登録され、アメリカの非課税組織に指定された。加えて東南アジア唯一の、アメリカ海外研究センター評議会(CAORC)のメンバーで、現在はプノンペン、ニューヨークやパリにも事務所を置いている。
CKSは本部の敷地内で図書館を開館している。現在ここには、欧米諸国のドナーから寄贈された1万1千冊以上の論文や本、雑誌が所蔵されており、多くの学生が閲覧室を利用している。当初寄贈された書籍は、外国語のものが多かったが、CKSがクメール語、英語、フランス語の三言語に翻訳した書籍もある。そのためため国籍を問わず、学べる場となっている。また今年5月には、8歳から12歳の児童を対象にした児童図書館が開館され、今後児童らに本や芸術への関心を深める取り組みを行う予定だ。このように国籍も年齢も問わず、全ての人に開かれた図書館を目指している。
図書館の中庭には別棟があり、このスペースを駆け出しのNGOやNPOに発表場として貸し出しをしている。さらにこの空間を利用して、大学生や高校生向けに会議を行ったり、若者の教育支援活動などを行ったりもしている。毎年6週間アメリカ・フランスの学生をカンボジアへ招き、現地の同世代の学生とのワークショップを行っている。ワークショップのテーマは毎年異なり、幅広い分野での相互理解を促すことが目的だ。他にも海外の学生や博士課程の学生を募集し、この地域の文化や歴史についての研究の支援もしている。このように書籍や交流プログラムを通し、カンボジア人と海外の学生を繋ぎ、カンボジアと東南アジアへの理解を深める活動をしている。
さらに2011年から、国立博物館所蔵の美術品の解説をフランス語から クメール語、英語への翻訳作業も行っている。国立博物館はフランスによって設立されたため、残っているデータは全てフランス語表記になっている。そのためCKSが博物館の学芸員と共同で、翻訳と所蔵品の新たな情報収集を行い、カンボジア文化を守る取り組みを行っている。
依然として馴染みの薄い書籍であるが、CKSの取り組みによってより多くの人が身近に感じるようになれば、再び遺跡にある経蔵のような大きな図書館が見られる日が来るかもしれない。
※基本統計 – 日本ユニセフ協会
センター・フォー・クメール・スタディーズ Center for Khmer Studies(CKS)
Wat Damnak, Siem Reap
Tel: 063-964385
Fax: 063-963-035
URL: http://www.khmerstudies.org
E-Mail: center@khmerstudies.org
バックナンバー
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- 第14回 : センター・フォー・クメール・スタディーズ カンボジアクロマーマガジン28号
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