ホーム 過去のマガジン記事 ちょいと気になるNGO探訪: 第12回 : プノンペン自立生活センター

カンボジアクロマーマガジン25号

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 カルマの法則、という言葉がある。仏教の基本概念であるカルマの法則は、幸福は善き行い(良いカルマ)の結果であり、苦しみは悪しき行い(悪いカルマ)の結果であるという考えである。これは前世の行いが、現世に大きな影響を与えるということを意味しており、この理念は仏教国カンボジアにおいて広く深く信じられている。

 

 国連の発表によると、現在カンボジアには約55万人の障害者がいるとされている。確かに都市部では地雷や不発弾で手足を失った人を目にする機会は多い。しかしカンボジアに長く住んでいても、それ以外の障害を負った人を目にすることは極めて稀である。それは彼らが猛烈な差別の歴史の末に、社会から隔離され、世間に姿を現す機会がほとんどないからである。そしてその差別の根底にあるのが、カルマの法則なのだ。彼らは前世の行いが悪かった為に、障害者になった。自業自得。社会から、そのような目で見られているのである。
 実際、障害者たちの多くは、家の中で人生のほとんどを過ごしている。故にまともな教育を受けることができず、仕事を与えられることもない。まして結婚するなどということは先ず有り得ない。親族はその存在を恥じ、本人までもが自分の存在を恥じている。当然が如く、国や行政からの助成を受けることもなく、彼らは社会に黙殺された存在として、苦しみ嘆きつつ生きているのである。

 

 2009年、障害者による、障害者のためのNGOが設立された。プノンペン自立生活センター(PPCIL)は、「障害者を受け入れることのできるカンボジア社会を作る」ことを目標に、大阪や東京の障害者自立生活センターからの支援を受けながら活動を行っている。現地オフィスのスタッフは全部で7名。皆、何らかのハンディを持つカンボジア人たちである。
 NGOの設立者でマネージャーのサミス氏も幼い頃に小児麻痺を患い、終生下半身麻痺の身となった。しかし彼は幸運にも理解ある親によって、障害者でありながら、健常者と同様の教育を受けることができた。学校卒業後は職業訓練所のスタッフとして働いていたが、知人の勧めで参加した、アジア太平洋障害者リーダー育成事業の一環で、10ヶ月間日本に滞在し、障害者自立支援の研修を受けることとなった。その時彼は、日本社会とカンボジア社会の違いに驚愕したという。「日本ではどこもかしこもバリアフリーで、街の中を車椅子で自由に行き来することができました。そしていつでも健常者たちが助けてくれ、私は健常者と同じように暮らすことができたんです。」とサミス氏はその時のことを語る。
  帰国後、再び始まったカンボジアでの生活の中で、彼は社会に対し憤り、悔しくて泣いた。日本で見た、バリアフリー、社会福祉制度。そんなものとは無縁で、あるのは差別ばかり。一時期、日本に移住することも考えたが、苦悩の末に「自分がカンボジア変える」という決断に至った。彼は知人の障害者たちを集めて、日本で見たこと学んだことを共有し、彼らと共に自立生活センターを設立した。

 

 設立から3年の間、センターは首都近郊を拠点に障害者たちの自立支援やカウンセリング、障害者の権利擁護運動、公共介助制度の施行に向けた活動をなどを行ってきた。しかし、いつも決まって彼らの活動には強力な壁が立ちはだかった。それはカンボジア社会全体の障害者に対する理解不足である。何をするにもカルマの法則、そして差別。さらにカンボジアでは健常者だけでなく、障害者自身の意識の改革が不可欠であった。それでもメンバーは屈することなく、障害者や健常者を集めてセミナーを開き、社会の中の障害者のあり方を、社会に向けて訴えた。そして最近、その呼びかけに応え、共に戦ってくれる者たちが現れ始めた。それはプノンペンの大学に通う学生たちである。彼らはセンターが提案する、障害者の介助制度の制定に向けた運動の一環として、自ら障害者の介助活動を行っている。
 「若い世代が、私たちに理解を示し、協力してくれることは大変心強いことです。とはいえ、まだまだ社会が変わったとはいえません。先ずは障害者が自分たちの存在意義をもっと理解し、自分たちの主張を社会に訴えていかなければならない。まだまだ先は長いですよ。」とサミス氏は力強く語った。

 

 自身のハンディ以上に厚い壁。彼らの戦いは、今始まったばかりだ。

 

 

PPCIL-Logo

プノンペン自立生活センター
PPCIL
Sangkat Kakap, Khan Porsenchey, Phnom Penh
Tel: 023-866-348 / 012-873-086
URL: www.ppcil.org

 


クロマー編集部

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