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カンボジアクロマーマガジン7号

甦るカンボジアシルク -途絶えた伝統の復活-

<取材/文/写真:クロマーマガジン編集部> 参考文献:森本喜久男著『カンボジア絹絣の世界』(NHK出版)

 

伝統の森   絹を紡ぎ人を育む

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森本喜久男(クメール伝統織物研究所)  自然循環型「村」再生への挑戦

タイで一枚のカンボジアの布に出会ってから、不思議な縁に導かれ、内戦で失われてしまったカンボジアの織物を復興させようと立ち上がった日本人がいる。京友禅の染め職人をしていた森本喜久男さんだ。

 

森本氏は素晴らしいカンボジアの織物を復活させようと、タケオ州の村から染め織りの経験者を呼び寄せ1996年「クメール伝統織物研究所(IKTT)」を設立。織物の技術継承者を求め村を回るうちに、昔の村には外から何も買わなくても布を生み出せる豊かな自然環境、染め織りに必要なもの全て―新鮮な染色素材や木々など-が織り手の生活の中にあったことを知った。

森と村の再生

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かつてカンボジアの村は、豊かな自然環境との循環を生かした暮らしがあり、自給自足で成り立っていた。織物もまたその循環の一角にあり、伝統織物の再生のためには、自然環境(森)、さらにその世界を作る生活環境(村)の両方を取り戻さないことには不可能である考えた。

 

しかし、既存の村でそれを実施することは難しい。それなら新しく村を作ろうと、2002年5ヘクタールの土地をシェムリアップ郊外に取得し、「伝統の森」再生プロジェクトを開始した。荒れ果てた土地を開墾し、織物素材に必要な桑畑、ラックカイガラムシ(赤の染めに使う有用昆虫)のホストツリーとなるグアバ、藍をはじめ自然染色になる木などを植林。さらに人々が生活するための農産物の栽培・生産。近くには川が流れ湿地帯もある。

 

開始から5年が経過し、土地は約23ヘクタールまで拡大した。植えた木々は育ち、インフラも整備され、現在は35世帯140人が住む「村」と呼べるほどに成長した。「現在織物に必要なものは全て森で作り、科学的な物は一切使わず、村にあるものだけで作れるようになった。今は染めの木を切ったらまた植えるというように、森の木をどうやって育てるか、どうやって取り戻すかが課題」

伝統は作るもの

「伝統の森」では、伝統を復元しながらも新しいものも取り入れる、いわば「伝統の創造」をモットーとしている。

 

「長い内戦により、銃弾を避ける知識は知らずについているが、食べていくための野菜をどうやって育てるのかを知らない人たちと一緒に野菜を育てている。生きていくための生活の術を取り戻すことが必要。自給自足まではいかないが、自然を生かし出来ることは何でもやる。ソーラーパネルを設置し、電力を確保し、将来的には牛の堆肥でバイオエネルギーも取り入れたい」

 

また、若者の美意識を育てることにも力を入れている。美意識を持っていれば、変わらず美しいものを作っていけるからだ。将来的には「自然と人」を基本に、語学とアートを総合的に学ぶ「伝統の森学園」、さらに古い布や道具を常設展示するミュージアムを設立することを構想している。

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