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カンボジアクロマーマガジン29号

コンポンプルック 浸水する村と、人々の暮らし

[取材・文] 多賀史文、永広まりこ [写真] Hou Sokratana [制作] 安原知佳

増水と生きる村の暮らし

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  コンポンプルックの家々は、ロリュオス川沿いの土手道に向かいあって、ほぼ一直線に建ち並んでいる。この高床住居群は渇水期に訪れれば空中に聳え、浸水期に訪れると水上に浮かぶ。故にそれぞれ違う季節に訪れると、違う村に来てしまったのではないかと錯覚してしまう。
 渇水期、村人たちは高床の床下に中間床を設け、そこで日用品店を経営したり、蚊帳を取り付けて寝床に使ったりする。また通り沿いに仮設小屋を建て、甘味屋や床屋、仕立て屋などを開いたり、路上で手押し車や自転車の荷台に商品を載せた行商が往来したりしている。
 一方、浸水期になると住居の床下部分は湖水に浸かってしまう。そのため村人たちは中間床を取り外し、お店を床上のポーチに移動させたり、手漕ぎ船の上で営業するようになる。
 村人の家を訪問した。高床住居の軒先には小さな家庭菜園があり、野菜や香草を育てている。ポーチは赤い花をつけた鉢植えで彩られ、隅にネアック・ター(注2)を祀った祠が置いてあった。
 建物内部は横5m、奥行き15m程、一繋がりの空間になっている。床板を簀の子状に敷いてあるからか、隙間風が通り抜けて想像以上に涼しい。ここで家族7人が寝食を共にして暮らしているそうだ。プライバシーはないのかと気になったが、中を布で仕切って使うのだと説明してくれた。近頃は板で区切って個室を設ける家もあるらしいが、基本は見ない聞かないの倫理観でどうにかなっているそうだ。
 村が湖水に浸かって困ることはないのか、と家の奥さんに尋ねると「とくに困ることはないわ。生まれた時からずっとこの村に住んでいるから。村には市場がないけど、食品や生活用品なんかは、誰かがとなり村から仕入れて来てくれるの。」と答える。
 本当に困らないのかと尋ねると「強いて言うなら、床の隙間から物が落ちる事ぐらいかしら。」といって紐で柱に繋がれたテレビのリモコンを見せてくれた。

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魚師たちと浸水林

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 正午過ぎ、浸水林(注3)の木陰に漁船が集まり、船上で漁師たちが沖から獲ってきた魚の売買を行っていた。今日は大漁船が多いようで、船団は大いに盛り上がっている。
 コンポンプルックに住む村人の9割が漁業関係の仕事に従事している。漁業職には大別して漁師と仲買人があり、漁師家族の月収は80万~120万リエル程、仲買人家族は月収100万リエル程。これはカンボジア全土の農村部と比較するとかなりいい収入だ。
 しかしながら老漁師は「昔、トンレサップ湖は魚で溢れ返っていて、網なんか使わなくても手で魚が獲れた。」と物憂げに話す。近年は乱獲や、魚の産卵場である浸水林の伐採によって村の漁獲量は減少傾向にあり、さらに原油価格の高騰が追い討ちをかけて、漁師たちの経済状況は悪化してきている。最近は漁船を売って遊覧船の船長に転身する者も増えた。
 これを受けて国や自治体は漁場を守るために、浸水林の重要性を村人たちに教えたり、苗木の植樹を進めたりしている。「あっちの背の低い林は漁師たちで植えたものなんだ。俺が年寄りになるころには、手なんか使わずとも魚の方から船に飛び込んでくるようになるだろう。」と若い漁師が笑いをとると、再び船団は活気づいた。

注3:浸水域にある林のことで、ここに生える木は半年間も水に浸かっていても枯れることがない。

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素敵なカンボジアに出会う小旅行へ―The trip to encounters unknown cambodia